道路などによって蓋をされてしまった河川や水路の痕跡を「暗渠」と呼ぶ。東京には、そんな暗渠が無数にある。暗渠研究の第一人者・本田創さんに、川の流れる町だった渋谷を案内してもらった。
「1本の暗渠化された川をたどると、東京の街の発展がわかることが面白いですね。東京の暗渠のシンボル的な存在が渋谷川です。裏原宿界隈のキャットストリートがかつては渋谷川だったことや、都心の新宿御苑や明治神宮に水源を持つことは意外と知られていません」(本田さん)
渋谷川は新宿御苑内の源流から、いくつもの支流を集めて渋谷区、港区を流れ(港区内は古川と呼ぶ)、東京湾に注ぐ全長約11キロの川だ。暗渠になっているのはそのうち、JR渋谷駅以北の上流約4キロの区域。暗渠化前は、渋谷駅前付近に宮益水車があるなど流量豊富な川だったが、東京五輪前年の昭和38(1963)年に宮益橋付近から暗渠化されて下水道幹線になり、川の姿は消え、地上では開発、都市化が加速した。
渋谷川最大の支流である宇田川は1960年代前半に全域が暗渠化された。宇田川に合流していた河骨川は唱歌『春の小川』のモデルにもなった川だが、1964年に暗渠化され、源流の一つだった山内侯爵邸の湧水池の跡付近には現在、マンションなど建物が密集している。
いずれの暗渠にも川が流れていたことを示す痕跡や川筋の名残があり、それらを探しながら歩くのは探検のようで楽しい。
【プロフィール】
本田創(ほんだ・そう)/1972年生まれ、東京都出身。小学生時代に祖父から古い東京区分地図をもらったのをきっかけに暗渠の探索に目覚め、「暗渠者」として活動を続ける。著書に『東京暗渠学』、編著に『東京「暗渠」散歩』など。
撮影/小倉雄一郎 取材・文/上田千春
モノクロ写真/『渋谷の記憶 写真でみる今と昔』(渋谷区教育委員会)より
※週刊ポスト2022年4月22日号