最近、注目されている女流落語家。男性噺家にはない発想の転換で聞き手を魅了している。そんな女性落語家がおすすめする落語とは──。柳亭こみちに聞いた。
柳亭こみちが2003年に入門した当時、東京の女流は10人にも満たなかった。その後、所属する落語協会の女流で初めて家庭を持ち、2度の出産、授乳中に真打昇進と、これまで誰も歩んでこなかった道を切り開いてきた。
「これまでも、女性の先輩がたが茨の道を開拓してくださいましたので、さらに前例のない事案に直面するたび、“自分も前例を作ろう”と突き進んできました。次男を2015年12月16日に出産したときは、12月11日まで仕事をこなし、24日には高座に復帰していました(笑い)」(柳亭こみち・以下同)
まっすぐな古典落語の演じ手として評価の高い彼女が現在取り組んでいるのは、女性にしかできない役を古典落語に落とし込む“古典落語女性版”。
二ツ目の頃から女性版は作っていたというが、その必要性をより感じたのは真打になってからだという。
「真打になると、寄席では前も後ろもすごい人ばかり。そういう人に揉まれて高座に上がるとき、古典落語と女性版を使い分けられるよう、持ち札を多くしないとだめだと感じたんです。古典がすごい人は山ほどいますので。
落語は、男性が演じた方が楽しい噺がほとんどです。私がどんなに古典落語で及第点を取って『女性の割には違和感なかったね』と言われても、面白さでは負けてしまう。
自分の強みを生かすには、女性が活躍する噺、むしろ女性が出てくるからこそ面白いと思っていただける噺をもっとたくさん作るべきだと思っています」
そんな、こみち作の女性版作品のなかから、初心者も通も楽しめる6作品を挙げてもらった。
「オリジナルと聞き比べるのも面白いと思いますが、原作を知らなくても楽しんでいただける噺を心がけています」
まずは、侍、家来、隣人の男という登場人物を、ご婦人、女中、老婆に変えた「女たちとたけのこ(原題:たけのこ)」だ。
「このおばあさんがとんでもない人で、おばあさんが出てくると、会場がどっと沸く。落語会では人気のキャラクターです」
そして、いまや代表作ともいえる「そばの清子(原題:そば清)」。「コンセプトは、ギャル曽根さんがいるんだから、この時代も大食いの女がいただろうと(笑い)。
『そば清』では、そばの大食いの賭けで家を3軒建てたという筋書きですが、清子さん版は子供を5人育てたという設定にしました。また、女性ならこう食べた方が面白いよねというように、しぐさにもこだわっています」