脊柱管狭窄症など脊髄の疾病は、治療しても慢性疼痛が残ることがある。手術しても痛みは軽減せず、生活の質の低下が著しい。痛みは脊髄を通り脳に伝わるが、現在はそれを途中で別の信号に変えて痛みを軽減させる脊髄刺激療法(SCS)が行なわれている。効果がなければ中止できる上、デバイスの発達や刺激法の改良で、慢性疼痛患者の痛みの軽減率が向上している。
脊柱管狭窄症や脊髄損傷などによる痛みは、痛みの信号が脊髄を通り脳に伝わって初めて“痛い”と認識される。
その場合、薬物療法や手術などが行なわれるが、治療しても痛みが残る難治性の慢性疼痛になると生活に支障が出て就労困難に陥ることも。
こうした難治性慢性疼痛に対する治療法として広がりを見せているのが、脊髄刺激療法(SCS)だ。この治療は欧米で40年以上前から実施、全世界で約35万人以上に施術されているが、日本では9000人程度でしかない。
岩井医療財団稲波脊椎・関節病院(東京都品川区)整形外科の金子剛士医師に聞いた。
「難治性の慢性疼痛は病態が十分に解明されておらず、診断や治療が困難な症例も多く存在します。私は整形外科医として主に脊髄の治療を行なってきましたが、手術で構造を修正しても痛みの軽減に繋がらないこともありました。そのため神経に介入しなければ治療にならないと考え、SCS療法の臨床研究を始めたのです。そのSCSとは脊髄と脳の間でやり取りされる痛みの信号を別の信号に変え、痛みを軽減させる治療です。効果を確認できなければ止めることもできます」
治療は脊髄の硬膜外にリード線を留置し、ペースメーカーのような形の神経刺激装置(ジェネレーター)を植え込み、外からコントローラーで通電刺激を行なう。通常は局所麻酔でリード線を入れ、電気刺激を実施するトライアル後に痛みの軽減が確認できた時点で、本体のジェネレーターを植え込む。
「日本ではSCSは1992年に保険収載されています。ただ当時のリード線には電極が1極しかなく、少しでもズレると痛みが軽減しないケースもあり、それが普及してこなかった大きな原因でした。近年では電極が8極のリード線が開発され、しかも2本植え込み、計16極で刺激可能になったのです。結果、70~80%で効果を実感できています」(金子医師)