芸能

放送作家・鈴木おさむ「命を扱うドキュメンタリーの壮絶さ」について

鈴木おさむ氏

鈴木おさむさんに「命を扱うドキュメンタリーを作ること」について聞いた

 2021年9月、男性不妊を題材にした小説『僕の種がない』(幻冬舎刊)を上梓した、放送作家の鈴木おさむさん(49才)。主人公はテレビドキュメンタリーのディレクターの男性で、取材対象者を傷つける可能性を自覚しながらも、自らの「おもしろい」という感覚を信じて突き進んでいく。「僕の経験ももとになっている」と話す鈴木さんに、ドキュメンタリーを作ることについて話を聞いた。

 * * *
 物語が進む過程で、主人公は、末期がんで余命半年のお笑い芸人の男性のドキュメンタリーを撮ることになります。余命半年のお笑い芸人の「何」を撮れば一番「おもしろい」のか。主人公は考えた末に、彼に「子供をつくる」ことを提案するんです。

『僕の種がない』は小説で、フィクションです。それでも「自分がいなくなることがわかっていて、育てられもしない命を遺したいと考えるのは自分勝手だ」という感想もありました。それだけ「命」を扱うドキュメンタリーには、人の心を強く揺さぶるなにか、言うなれば”破壊力”があると思います。

 ここからは僕自身の経験です。いまから8年前、ある女性から僕宛に手紙が届きました。30代のお母さんで、子供がまだ2才。がんになってもう治らないと言われ、自分が存在した証を遺したいと書いてありました。すごく分厚い手紙だったんです。

 僕に何かできることはないかと思って、ビデオカメラを持って自宅にお伺いしました。カメラを回しながら、彼女の人生についてインタビューして……3時間ほどだったかな。彼女は「悔しい」と話していました。

 悩んだのはそこからでした。番組にするか、しないか。

「番組」というのは「おもしろい」必要があります。その女性の場合だと、きっとナレーションは感動的にするだろうし、悲しい音楽がつくことでしょう。そして、番組制作には多くの人が関わって、多種多様な作業があるので、そのすべてを僕がチェックすることはできないし、ディレクションすることはできない。

 その番組を見た彼女はどう思うだろうか? そう思い悩んだ末に、やめたほうがいいと思いました。彼女への取材が世に出ることによって、結果的に彼女を傷つけることがあるかもしれなくて、その可能性はゼロにできないから。

 ミュージシャンの川村カオリさん(享年38)ががんになってからのドキュメンタリー番組を作ったことがあります。彼女は2009年、7才のお子さんを遺して亡くなりました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバム、
「『犯罪に関わっているかもしれない』と警察から電話が…」谷内寛幸容疑者(24)が起こしていた過去の“警察沙汰トラブル”【さいたま市・15歳女子高校生刺殺事件】
NEWSポストセブン
NHKの牛田茉友アナウンサー(HPより)
千葉選挙区に続き…NHKから女性記者・アナ流出で上層部困惑 『日曜討論』牛田茉友アナが国民民主から参院選出馬の情報、“首都決戦”の隠し玉に
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
フジテレビの取締役候補となった元フジ女性アナの坂野尚子(坂野尚子のXより)
《フジテレビ大株主の米ファンドが指名》取締役候補となった元フジ女性アナの“華麗なる経歴” 退社後MBA取得、国内外でネイルサロンを手がけるヤリ手経営者に
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(時事通信フォト)
《「心神喪失」の可能性》ファストフード中学生2人殺傷 容疑者は“野に放たれる”のか もし不起訴でも「医療観察精度の対象、入院したら18か月が標準」 弁護士が解説する“その後”
NEWSポストセブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと住所・職業不詳の谷内寛幸容疑(右・時事通信フォト)
〈15歳・女子高生刺殺〉24歳容疑者の生い立ち「実家で大きめのボヤ騒ぎが起きて…」「亡くなった母親を見舞う姿も見ていない」一家バラバラで「孤独な少年時代」 
NEWSポストセブン
6月にブラジルを訪問する予定の佳子さま(2025年3月、東京・千代田区。撮影/JMPA) 
佳子さま、6月のブラジル訪問で異例の「メイド募集」 現地領事館が短期採用の臨時職員を募集、“佳子さまのための増員”か 
女性セブン
〈トイレがわかりにくい〉という不満が噴出されていることがわかった(読者提供)
《大阪・関西万博》「おせーよ、誰もいねーのかよ!」「『ピーピー』音が鳴っていて…」“トイレわかりにくいトラブル”を実体験した来場者が告白【トラブル写真】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《広末涼子が釈放》「グシャグシャジープの持ち主」だった“自称マネージャー”の意向は? 「処罰は望んでいなんじゃないか」との指摘も 「骨折して重傷」の現在
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン