戦禍を逃れ、日本へと避難してきたウクライナ人女性が、神妙な顔つきで心境を吐露する。
「今は大変だけど平和になるように祈っている」
画面下の字幕にはそう記されている。4月10日、NHKの正午のニュースで、ウクライナのザポリージャから来日した女性が取り上げられた。祖国を憂い、平和を祈るウクライナ人女性のインタビューに映るが、発言内容に疑問の声を上げるのは、ロシアやウクライナ情勢に詳しい青山学院大学名誉教授の袴田茂樹氏だ。
「実際にニュースを見ていて、強い違和感を持ちました。映像中の女性の言葉は、南方アクセントのロシア語とウクライナ語のミックスで、直訳すると『私たちの勝利を願います。勝利を。ウクライナに栄光あれ』と話しています。戦争に勝つことを願う主旨の発言で、平和云々は語っていない。NHKの字幕は意訳ではなく戦闘を悪とする平和主義の意図的な改変だと感じました」
NHKは昨年12月、東京五輪の公式記録映画に密着したドキュメンタリー番組『河瀨直美が見つめた東京五輪』で、五輪反対デモの参加者という人物について、「お金をもらって動員されている」と字幕を付けて放送したが、後にそうした事実は確認できていなかったことが発覚。2月に公表した調査報告書で、「担当ディレクターが問題ないと思い込み、真実に迫る姿勢が欠けていた。上司の確認にも問題があった」と謝罪したばかり。字幕の“改変”はなぜまた繰り返されたのか。
NHKに聞くと「インタビューは、当日取材現場にいた、日本語が分かるウクライナの方にご協力をいただき行ないました。引き続き、発言の内容が的確に伝わるよう努めてまいります」(広報局)とのことだった。前出の袴田氏が語る。
「ロシアの侵攻もウクライナの反撃も戦争は等しく悪だというスタンスなのかもしれませんが、どんな背景があるにせよ女性の発言内容を変えて良い理由にはならない。特に今は情報が錯綜しており、メディアにはロシア情勢を正確に伝えてほしいと願っています」
公共放送のNHKは、先頭に立ってその役割を果たすべきだ。
※週刊ポスト2022年4月29日号