新聞・メディア業界に大きな衝撃を与えたのが朝日新聞の峯村健司・編集委員(外交、米国・中国担当)による、『週刊ダイヤモンド』の安倍晋三・元首相インタビュー記事への介入問題だ。
峯村氏は中国の安全保障政策に関する報道で「ボーン・上田記念国際記者賞」、昨年は無料通信アプリLINEが日本の利用者の個人情報に中国人技術者がアクセスできる状態にしていたことをスクープして新聞協会賞を受賞した朝日のエース記者。その峯村氏が今年3月、『週刊ダイヤモンド』が行なった安倍氏へのインタビューについて同誌の副編集長に電話を入れ、「安倍(元)総理がインタビューの中身を心配されている。私が全ての顧問を引き受けている」と発言し、「とりあえず、ゲラ(*校正用の記事の試し刷り)を見せてください」「ゴーサインは私が決める」などと要求した。
週刊ダイヤモンド編集部は要求を拒否し、朝日新聞に対して「編集権の侵害」と抗議。朝日は調査を経て、「政治家と一体化して他メディアの編集活動に介入したと受け取られ、記者の独立性や中立性に疑問を持たれる行動だった」とダイヤモンド側に謝罪。4月7日付朝刊社会面で峯村記者の行為は「報道倫理に反する」と編集委員を解任し、停職1か月の処分を下したことを大きく記事化した。
なぜ、朝日の編集委員が“安倍氏の代理人”を務めたのか。安倍氏は首相退陣後も新聞・テレビに積極的に登場し、ロシアのウクライナ侵攻後は、特に核共有についての議論提起に力を入れている。
首相を辞めてもなお、メディアにそれだけの発信力があるのは、連続在任7年8か月の長期政権下で大メディアを取り込んできたからだ。
安倍氏のメディア戦略は自ら新聞・テレビの最高幹部と会食を重ねて“懐柔”をはかる一方で、「中立・公平」を口実に報道内容に細かく注文をつけて“圧力”をかけるアメとムチの手法で行なわれた。
巧妙だったのはNHKの岩田明子氏、TBS時代の山口敬之氏、テレビコメンテーターでは政治評論家の田崎史郎氏など、主要なメディアに“安倍応援団”の記者をつくり、巧みに官邸寄りの情報を発信させたことだ。
2013年10月に放送されたNHKスペシャル『ドキュメント消費税増税 安倍政権 2か月の攻防』では、安倍氏がどんな覚悟と勇気をふるって消費税増税を決断したかが描かれ、岩田氏が総理執務室で安倍氏を独占インタビューする。まさにNHKが首相の宣伝番組の制作プロダクションになったかのようだった。