長らく映画はフィルムで撮られてきた。その場合、撮影したネガを現像して上映用のプリントにし、それで初めて映像として目にすることができる。近年、そうしたフィルム=アナログ方式で撮られた旧作を映画館での再上映やソフト化する際には、一度デジタルデータに変換する「リマスター」作業が行なわれている。なぜデジタル・リマスターをする必要があるのか――。長年にわたり現像やデジタル化を担ってきた東映ラボ・テックのベテラン技師、根岸誠氏に、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がその事情を聞いた。
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根岸:古い作品はフィルムで撮影されているので、本当は今でもフィルムのまま上映してもらうのが一番良いんです。
しかし、もう残念ながら、今はフィルムで観られる劇場が数えるほどしかないので、観てもらうためにはどうしてもデジタル上映をする必要があります。そのためにフィルムのネガからデジタル化をするわけです。
映画館の事情だけではありません。昔は、フィルムで撮った作品をビデオやDVDとしてテレビでかける場合は「テレシネ」といって、テレビ用のビデオデータに変換していました。しかし、テレビも以前よりはるかに綺麗に色が出るようになりましたので、テレシネよりももっと高精細なデジタルデータで観てもらう必要も出てきたんです。
そうした事情から「デジタル・リマスター」という言葉が言われ始めたんじゃないかなと思います。
「リマスター」という言葉には「従来のテレシネとは違う」ということと、それだけでなく「元々のフィルムの質感は残そう」ということ、二つの意味合いが込められています。
テレシネの場合は「テレビできれいに観られればそれでいい」という考え方がありました。以前のテレビは色が表現できる幅がとても少なかった。今のテレビは色が表現できる幅がすごく広くなっているので、その分だけ――フィルム自体がそういう情報量をもともと持っているので――そこに合うように改めて再現してあげる必要が出てきたわけです。