胃酸の正体は、胃の中で食物の消化を助ける塩酸だ。酸度が高いため、逆流が頻繁に起こると食道がただれる逆流性食道炎につながる。逆流性食道炎は、食道粘膜がただれた「びらん」状態になっており、専門家の間では「びらん性胃食道逆流症」と呼ばれている。1990年代後半から患者数は増加している。
「胃や胸に違和感はあったが、じつは逆流性食道炎だった」という人は少なくない。統計によって割合はまちまちだが、「日本人の5人に1人は罹患と推定」「3人に1人は悩んでいる」などと言われている。本人に自覚症状がなく、健康診断の内視鏡検査で初めて気づかされる場合も。
消化器やがんを専門とする東邦大学教授の島田英昭氏は、逆流性食道炎とピロリ菌の関係性を指摘する。胃のなかに生息してがんや潰瘍を引き起こすピロリ菌は、除菌対策や生活環境の変化で感染率が激減した。
「ピロリ菌感染率が低下したことで、慢性胃炎が減少。その反面、胃が元気で胃酸分泌が活発な人が増加し、逆流性食道炎の患者が増えました」
結果、逆流性食道炎は新たな国民病となりつつある。
食道の炎症を抑える食品選び “加齢で高まる罹患率。予防は食の見直しから”
食道と胃の間にあり、胃液の逆流を防ぐのが「下部食道括約筋」。下部食道括約筋がゆるんで胃液が逆流する現象は、多かれ少なかれ誰の体にも起こっている。この下部食道括約筋が加齢によって衰えると、胃液が食道へ逆流しやすくなり、炎症を招く。
逆流性食道炎を放置すると、食道の粘膜が変質して腺がんへと進行する可能性も出てくる。食道はリンパ組織が豊富なため、がんになるとリンパ節に転移しやすい。また飲み込む力が弱くなった高齢者は、逆流した胃液が肺に入り、誤嚥性肺炎の危険が高まる。そんな逆流性食道炎を予防するため、すぐに取り掛かれるのが食生活の改善だ。食道に優しい食材の知識を会得したい。