どれだけ時間が経過しても、簡単に消えないのが“パートナーによる裏切り”に対する怒りだ。色々な事情で生前は別れられない場合、「死後離婚」はその怒りをはき出す最後の手段かもしれない。近年、着実に増えているという死後離婚について、実例を交えて紹介する。
姓を戻したい
「夫は複数の女性と不倫し、バレるたびに平謝り。私はずっと離婚したかったのですが、夫にのらりくらりとかわされて……。2年前に病気で他界しました。私は夫の姓のままでいることが、夫の生き方を容認しているようですごくイヤでした。だから旧姓に戻すことにしました」(50代の雅代さん・仮名)
そこで、雅代さんが手を伸ばしたのが「復氏届」だった。離婚カウンセラーの高原彩規子さんが解説する。
「復氏届は死んだ配偶者の姓から旧姓に戻すためのもので、役所に提出します。親族の同意がなくても、自分の意思だけで提出が可能です。自分の親が存命であれば元の戸籍に戻ることもできますが、亡くなっている場合は、自分を筆頭とする新しい戸籍を作ることになります。姓を戻しても、遺産を相続する権利を失ったり、遺族年金を受け取れなくなることはありません。
ただし子供がいる場合、子供の姓を変えるには裁判所の許可と役所での手続きが必要です」
遺品に触れたくない
夫の遺品整理中に思い出があふれてきて──とはならない人もいる。夫婦問題研究家の岡野あつこさんが話す。
「最近は遺品整理を専門に行う業者も増えています。特に日常的に使っていたものや、身につけていたものを“見るのも触れるのもイヤ”という人は、一切を業者に任せて一気に処分してしまうケースもあります」
ただし、不要品だと思われるものの中に価値があるものが含まれていることもあるので、遺産分割が終了する前に処分すると大問題になる。子供などが相続する財産は勝手に処分することはできないので、注意が必要だ。
家の空気を吸いたくない
「いつも怒鳴りつけ、時には暴力までふるっていた夫が亡くなり、今後は自由に暮らせると思っていました。ところが、家にいるとどうしても夫とのイヤな思い出がよみがえってきて……。“ひとり暮らしには広すぎるから”という理由で、小さなマンションに引っ越しました」(70代の勇子さん・仮名)
慣れ親しんだ家や近所づきあいを捨ててでも、転居を選ぶ人もいる。
「高齢になってからの転居は精神的な負担も大きいものです。それでも、夫の気配や息づかいが残る家に住むことに耐えられないと、住み慣れた家を処分する人は一定数います」(岡野さん)
同じ墓に入りたくない
「夫の先祖代々の墓の手入れなんかしたくない」
「死んでまで夫と一緒なんて考えられない」
そんな声も聞こえてくる。