ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっても岸田政権の足取りは鈍く、課題は山積している。政界の先達である深谷隆司・元郵政相が喝を入れる。
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岸田総理は私も良く知っている穏やかな紳士だ。支持率も悪くない。しかし、隣国のロシア、中国、北朝鮮の動きを見ると、穏やかさやきれいごとでは済まない状況にある。
ウクライナの惨状を見て、「明日は我が身」という自覚こそ、今、岸田総理に求められることだと私は強く思っている。
安倍晋三・元総理が国内で米国の核を共有する「核シェア」を議論する時期に来ていると問題提起したが、それに対して岸田総理はあっさりと、「非核3原則があるから議論も考えていない」と国会で答弁した。「作らず・持たず・持ち込ませず」だけでなく、「議論せず」「考えず」なら“非核5原則“になってしまう。そんな姿勢でいいのだろうか。
そんな岸田総理と私には不思議な縁がある。
私の父は若い頃、青雲の志から満州に渡り、そこで幾久屋百貨店に主任として勤めた。だから私の姉の名前は幾久子という。この幾久屋百貨店の創業者が総理の祖父の岸田正記さんだったのだ。当時のことは父からよく聞かされ、また私が国会議員になってから、同僚議員だった総理の父の岸田文武さんにそんなお話をしたことがある。
そういう縁もあって、私が引退後、公募で選ばれた後継候補の辻清人君が当選し、どの派閥に入るかを決める時、岸田さんの宏池会を考えた。岸田さんなら誠実な人で、いずれ天下を取ると思っていたから、辻君を育ててくれるだろうと。その話がどこからか耳に入り、2016年11月9日に当時外務大臣だった岸田さんが私のところを訪ねてくることになった。
ところがその日は、ちょうどトランプが大統領に当選した日だった。外務大臣として忙しくしているのを見て、「これではスケジュール変更だな」と思ったが、岸田さんは予定通りの時間に訪ねてきてくれた。それを見て「とても律儀な人だ」と思った。
律儀で誠実なところは評価すべきだが、今回の核共有について議論もしないという部分はいただけない。
もちろん、岸田総理は核共有について全く考えていないわけはないでしょう。自分の意見を持っていると思う。だが、国民からはそう見えない。それでは示しがつかなくなる。難しい問題であっても、政治家なんだから、ましてや総理大臣なのだから思考停止ではいけない。岸田総理自身が率先して、何事も議論を尽くす姿勢を示すことを期待する。
【プロフィール】
深谷隆司(ふかや・たかし)/1935年生まれ。郵政大臣、自治大臣、国家公安委員長、通商産業大臣、自民党総務会長などを歴任。自民党東京都連最高顧問。
※週刊ポスト2022年5月6・13日号