世界有数の地震列島・日本には、M9以上の過去最大級の巨大災害が確実に迫っている。来たる南海トラフ巨大地震では、10県で震度7、西日本を中心とする広範囲で震度5弱以上が想定されているが、それ以上に深刻な被害を及ぼしかねないのが「巨大津波」の悪夢だ。
「ここに津波がきます」
そう表示されたスマホを手にする住民たちが、逃げ場を求めて歩き回る。3月12日、神奈川県川崎市は、巨大地震発生時に想定される津波の避難訓練を行なった。
そこで用いられたのが、「リアルタイムAI津波予測」という最新技術だ。富士通が東京大、東北大と共同開発した最新技術で、スーパーコンピューター「富岳」と人工知能(AI)を活用し、巨大地震が発生したら、いつ、どこに、どのくらいの津波が到達するかをリアルタイムで予測できる。同技術はまだ実用化前だが、危険度に応じて色分けされた津波情報が、スマホアプリ上の地図に表示される仕組みだ。
冒頭の避難訓練では、午前8時前にM8.5クラスの巨大地震が発生したと想定。川崎市立川中島中学校の近隣住民約180人が参加し、スマホの画面を見ながら危険な区域を避けて、安全な避難ルートを探しながら避難した。富士通研究本部主席研究員の大石裕介氏が語る。
「従来の予測では海岸線の津波高が公表されてきましたが、当技術では富岳とAIを活用することにより、内陸部の津波浸水まで予測できるようになりました。避難訓練では、川中島中学校付近の浸水深は50cm程度との予測が出ました」
リアルタイムAI津波予測の試みが示すように、巨大地震で発生する津波から身を守るためには、「いつ、どこで、何が起きるか」を正確に知っておく必要がある。特に切迫するのが、30年以内に70~80%で発生するとされている南海トラフ巨大地震だ。最大規模のM9クラスの巨大地震が発生したら、太平洋側で北は首都圏、南は鹿児島まで津波が押し寄せ、最大で32万人もの死者が出ると想定される。
耐震補強などの地震対策に比べて、津波対策は十分に浸透しているとは言い難いが、南海トラフ巨大地震で生じる津波は沿岸部だけでなく、内陸部や都市部にまで襲来する危険性がある。