医学の進歩によって老親が生きているうちに子供ががんになるケースも珍しくなくなった。老親や家族に「がんをどう伝えるか」は患者の誰もが悩むところ。いざ、家族に伝える際にはどうするのが“理想”なのか。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は「人それぞれだ」と語る。「患者さんにがんの告知をしても、それをご家族にどう伝えるかは、基本的には患者さん自身が決めることになります」
もちろん本人が告知される場に家族が同席して、医師の説明を受ける場合もある。
「ただ、なかには『親が弱っているから、どうしてもがんのことを告げられない』という患者さんもいます。どう伝えるべきか相談されたりもしますが、そのような場合も、患者さん自身がすでに決めていることが多い。医師としてはまず患者さんの話を聞いて、それを後押しするのが役割になります」(上医師)
家族との関係性や事情は千差万別で、家族への伝え方に“正解”はないが、実際に悩んだ末に決断し、実行した例を紹介していく。
3年前に前立腺がんを患った演出家の宮本亞門は、「あえて言わずにいた」父に、入院の3日前になって努めて明るく伝えた。
「本当に明るく、『前立腺がんなんだー』と。過去に膀胱がんを患った父も、明るく『大丈夫! 取れば大丈夫だよ』と応じてくれました。『親子で同じような境遇で面白いな』ってゲラゲラ笑って。
歳を重ねて病気や体の不調が出て、それでも生きるのは壮絶なこと。それが生きることなんだと親父から教わっていたので、僕も『手術しても生き抜くからね』と明るく父に言えたのがよかったです」
気丈に振る舞う2人だったが、手術後はこんな出来事があったという。
「手術の3日後くらいに、前触れもなく父が車椅子で姉と一緒に来たんですが、僕の顔を見た途端、父が『うわーっ』と泣き始めたんです。言葉では『大丈夫だよ』と言っていたけど、実は心配だったみたい。僕の元気そうな顔を見たら、喜びと安堵からか、ボロボロ泣いていましたね。僕は、親父を抱きしめました」(宮本)
※週刊ポスト2022年5月6・13日号