「敷金・礼金」に退去時の「原状回復」。顧客の「囲い込み」に「両手」仲介……。不動産業界独特のルールや慣習を表わす言葉は多い。売買にしろ賃貸にしろ、多額のお金が交わされるのが不動産ビジネスだが、その裏側はどうなっているのか──ドラマオタクのエッセイスト小林久乃氏は、それを垣間見せてくれる「山P」こと山下智久主演のNHKドラマ『正直不動産』に注目しているという。小林氏が綴る。
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バラエティーに富んだジャンルが並ぶ、春ドラマ。痛快推理劇の『元彼の遺言状』(フジテレビ系列)、ベテラン揃いで演技の安定したラブコメ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系列)。韓国ドラマを彷彿させる、小林的には超絶好みの『やんごとなき一族』(フジテレビ系列)など。各局、春の改編祭りを超えた結果なのか、まさに寿司屋の「いいネタ揃っていますよ!」状態。
そんなラインナップに“山下智久”という懐かしい名前があった。言わずもがな、日本のドラマ史上にありとあらゆる伝説を残したスターが、地上波に返り咲いたのである。彼が出演するのは『正直不動産』(NHK総合)。これがやはりというか、いかにもというか、面白い。
「嘘がつけなくなった」営業マンを好演
マンガ原作もある『正直不動産』のあらすじはこうだ。──永瀬財也(山下)は登坂不動産のナンバワーワン営業マン……のはずだったのに、自らの手で壊してしまった祠(ほこら)のたたりによって、それまでのセールストークのように、ペラペラと流暢な嘘がつけなくなってしまう。永瀬の成績は瞬く間に急降下。ライバル社員の桐山貴久(市原隼人)が、トップセールスマンとなる。永瀬は元に戻ることができるのか。それとも元に戻ることは幸せなのか?
タワマンに住み、女と客を転がして、嘘で無理固められた人生を送ってきた永瀬に起きた、突然の事件。真実しか口にできなくなった彼が、毎回物件を求める客に(社内的には)余計なことを言ってしまう。そこでキレる客もいれば、誠実な対応だと感謝してくれる客もいる。そんな一話完結型のドラマだ。
「このドラマ見たほうがいいよ〜」と、他人へつい言ってしまいそうになる理由は、不動産業界の裏話が物語にあるから。私たち、ユーザー側にとってヴェールに包まれていたような事実が毎回飛び出してくる。例えば売主と買主の間に存在する、あんこ業者。彼らの横流しする情報で、営業マンは客を口説く……いや客が騙されるのか……。