2020年に新型コロナウイルスの感染拡大対策として初めて緊急事態宣言が出されたとき、他県ナンバーの車を見つけると追い出そうとするなど極端な現象もあらわれた。それから三度目の春がやってきて感染対策も落ち着き、日常生活が送りやすくなったと思いきや、地方にはまだ都市部への恐怖が根強く残っているという。ライターの森鷹久氏が、停滞する地方のコロナ対応の閉塞感についてレポートする。
* * *
新型コロナウイルスの感染者数は、東京など都心では減っているものの、地方では再び増加傾向に転じていたりと、まだまだ予断を許さない状況が続いている。
「いやあ、マスクをしている以外は、皆さん『普通』ですよね。驚きました。家族からは行かないでくれ、と止められていたもんですからね」
4月中旬、出張のついでにと立ち寄った東京・新橋の飲み屋街で九州南部在住の会社員・松本壮さん(仮名・30代)は、驚きを隠せない口調で語りつつ、久しぶりの外飲みを楽しんでいた。そして、人口10万人程度の地元では、最近、また感染者数が微増に転じたが、それ以前から外食したり、家族そろってレジャーに行くことなどが「できない」状況なのだと話す。
「地元は普段から体調のよくない高齢者が多く、電車やバス、スーパーなどでも感染さないようにと気を遣わなければ、いろいろなトラブルに発展することもあります。実際、電車に乗っていたところ、マスク姿で咳き込む学生が高齢者に電車を降りるように詰め寄られる現場に出くわしたこともありました」(松本さん)
地元の飲食店は、大部分が時短営業か休業。繁華街は今なお閑散としている状態が続き、松本さんの両親も、東京や大阪、そして福岡など大都会への出張が多い松本さんについて、大きな不安を抱えているようだという。
「東京や大阪で感染者が増えていたころには、絶対に出張には行くな、都会は怖いぞと脅されましてね。大阪出張から帰宅したときは、両親に強く言われて、近くのビジネスホテルに泊まらされました。国内なのに自主隔離ですよ。さらに、ご近所にも出張のことは絶対に言うなと釘まで刺されました」(松本さん)
第6波がやってきて全国的な感染者数の高止まりが続いていたとき、都会の一部がそうであったように、松本さんの地元でも気が緩んだ市民が大勢、夜の歓楽街などに繰り出し、そこでクラスターが相次いで発生した。当然、地元では「●町の◆◆さんたちが酒を飲み歩いている」とか「あの店のクラスターは◆◆が原因」という噂が飛び交い、コロナが発生した家の住人が差別同然の扱いを受けていたこともあった。とはいえ、新規感染者数の減少が続き3年ぶりに行動制限を呼びかけられないゴールデンウィークを迎えられそうだと、長距離移動を非難したことなどなかったかのように、観光地の予約は盛況だという。ところが、それは都会だけの話だと松本さんは言う。
「結局、同じようなことは全国で起きていましたけど、都会の方はいい意味で忘れっぽい。今では、『かかったらしかたない』と皆さんいうし、地方のように気にしている人はほとんどいないのではないかって」(松本さん)