フィルムで撮った作品をデジタル・リマスターする背景を前回、東映ラボ・テックの根岸誠氏にうかがった。その際に出たのが、元のフィルムには膨大な情報量が記録されていて、ようやくデジタルの機材がそれに追いついてきたという話。つまり、フィルムの方がデジタルよりも情報量が多いということだ。このことはデジタル・リマスターについて考える際の根本として最も重要な点といえる。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、再び根岸氏に聞いた。
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根岸:デジタルはゼロか一かの世界なので、画と画の間の繋ぎ目が階段状になっているんです。その画質の高低は、階段がどれだけ細かいかということで決まります。一方フィルムはアナログなので階段ではなく「坂」なんです。
――段ではなく一本の線だと。
根岸:フィルムの情報をデジタル化するということは、いくつの階段によって坂としてどう表現するかということになります。それがデジタル・リマスターなのです。この技術が日々進化してきて、現在では線に近くなってきています。
――階段の幅が狭くなってきて、遠くから見ると線に見えるぐらいのところまで来ているということですね。
根岸:線に「見える」。まさにそうです。線そのものではないのですが、段が細かくなって線に見えているわけです。
――逆に言うと、フィルム、つまりアナログの「線の情報量」状態が本来はベストなわけですね。
根岸:それがアナログの良さです。フィルムってすごく滑らかな映像表現ができているんですね。だから、それをデジタル化するというのは、どうしても技術的にいろいろ困難な部分があります。
――機材が開発されてきたことで、その困難は減ってきた、と。
根岸:特にここ二十年ぐらいは飛躍的な進歩を遂げてきています。
――考えてみると、初期DVDソフトの映像ってカクカクしている印象がありました。まさに、段の幅が大きい感じでした。そこもやはり機材の問題でしょうか。
根岸:機材の問題ですね。DVDが出た頃はSD(Standard Definition)という、低い解像度の時代だったので、今から比べると、もう本当に雲泥の差がありますね。
――HDリマスターという言葉が使われますが、Hi Definition、高い解像度で作り直しましたよ、ということなのですね。4Kになるとその解像度がさらに上がる。
根岸:そういうことです。