「ウクライナ戦争の転換点になる」と言われてきた5月9日──ロシアにとって重要な対独戦勝記念日を迎え、プーチン大統領の暴走はどこへ向かうのか。新たなステージに突入した戦争の展開について、大和大学社会学部教授の佐々木正明氏に話を聞いた。
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戦勝記念日のプーチン大統領の演説は、当初のシナリオとしてはウクライナへの「特別軍事作戦」での戦果の報告だった。しかし、その目論見は大きく外れた。
それでも、「情報の鎖国」状態にあるロシアでは、プーチン氏の高支持率は今後も続くものと思われる。ロシア国民にとって、ソ連崩壊後に祖国の国力を失墜させてきたのはアメリカであり、“欧米の圧力からロシアを守るプーチン氏”は、まだ多くの国民から英雄視されている。
プーチン氏のウクライナ侵攻を支持しているのは、「ソ連時代を知っている」「情報を国営メディアに頼っている」「現在のウクライナを知らない」という3つの層だ。
ソ連崩壊が実体験としてある30代後半以上の人は、経済的に疲弊したロシアを立て直したプーチン氏の指導力を見てきた。情報ソースを国営メディアに頼っている地方在住者や高齢者は政府の統制した情報ばかり目にしている。そして、1991年の独立後に民主主義路線を取ったウクライナがロシアとは全く異なる価値観を持つ国だと理解していない人たちもいる。
反対にスマホで外国の情報に触れ、国際的感覚のある都市部の若者層は不満を募らせている。“情報の鎖国の外”にいる彼らは欧米との関係を絶たれ、留学やビジネスの停止により自分たちの未来への希望を奪われたという気持ちがある。そこから反プーチン運動が再燃する可能性はある。
ただし、そういった反乱の萌芽を治安当局は見逃さず、ロシアでは「浄化」を進めようとしている。国民を「愛国者」か「裏切り者」かに分け、反政府的な裏切り者には刑罰が科され、社会からも抹殺されかねないという恐怖を植え付けている。国民は反体制の意志をからめとられており、開戦直後に反戦を訴えていた勢力が極端に減ったのは人々が恐れをなしている証拠だと言える。