東端から西端まで約1万kmに及ぶ大国・ロシア。西側でウクライナへの侵略が続く一方、東側で起きたのが知床半島沖での観光船の沈没事故だ。現場では「ロシアの協力」が必要だというが……。
複雑な海流が、捜索をどんどん困難にしている。
4月23日に北海道斜里町の知床半島沖で観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故では、乗客14人が死亡、12人が行方不明となった(5月5日現在)。
時間の経過とともに捜索範囲は広がり、事故翌日に10人が発見されたのは沈没現場から北東15kmとなる知床岬先端の海上や岩場。その後、さらに東方に10km以上離れた場所で子供の乗客が見つかった。別掲地図の通り、北方領土・国後島のほうへと流されているのだ。潮の流れは速く、「残りの遭難者の多くが国後島との中間ラインを越えている可能性がある」(地元紙記者)とみられている。
事故の前日に公表された日本の外交青書では北方領土について「ロシアに不法占拠されている」と明記され、19年ぶりに「不法占拠」という文言が復活。融和色が一掃されて緊張が高まったタイミングで、事故は起きた。
小樽に拠点を置く海上保安庁の第1管区海上保安本部は、ロシア側との協力態勢をこう説明する。
「海上での捜索と救助に関する国際条約(SAR条約)に基づき、日露で両国の海難救助を巡る二国間協定を締結している。この協定に基づきロシア側と調整を行なっているところです」(総務部)
そうしたなか、第1管区本部宛てにロシア国境警備局から1通のFAXが届いたのは、4月28日夕方のことだった──。