5月3日、俳優の渡辺裕之さん(享年66)が急逝した。死因は「縊死」。常に溌剌とした印象の渡辺さんだったが、深刻な悩みを抱えていたという。
「実際にはこの2年ほど元気がなく、顔色も冴えませんでした。コロナ禍だけが理由ではないですが、以前のように仕事が入らず、思い悩んでいたようです。先のことを考えると不安になり、食事も満足に喉を通らないようでした。それでも、人前に出るときには周囲が期待するエネルギッシュな姿を見せたいと責任感を抱き、それが余計な負担になっていたのかもしれません」(テレビ局関係者)
今年3月に開催されたジャズライブでは、演奏前に「どうしても自信がもてない」と震える姿をライブ関係者に目撃されている。
「老年性うつ」を引き起こす喪失体験
なかなか心が前向きにならない。思ったように体が動かない──こうした「理想と現実のギャップ」は多くの人を苦しめる。
「渡辺さんは、自分に求められる役割を充分理解していました。60才を過ぎてもトレーニングに精を出していたのは、“ファイト一発”のイメージで語られることが多いとわかっていたんでしょう。ですが、筋肉や関節などの痛みが常態化していて、トレーニングが満足にできず、肉体の衰えを感じていたようです。ものすごくストイックで自分に厳しく、繊細なかたなので、自分を追い込んでしまっていたのかもしれません」(芸能関係者)
精神科医の片田珠美さんが解説する。
「渡辺さんは、『老年性うつ』の1つである初期老うつ病だった可能性が高いと思います。初期老うつ病は、本人が『大切なものを失った』と感じ、『自分はもうダメだ』と思い詰めるような“喪失体験”が契機になることが多い。たとえば、仕事が減ったり、うまくいかなくなったりして被る経済的な損失や、そのせいで愛する妻や家族を養うという自分が果たすべき責任を果たせなくなり、自分の存在意義がなくなったと感じることなどです。
また、以前のように肉体をうまく動かせなくなったと実感する場合も、喪失と受け止められやすい」(片田さん・以下同)