「ウクライナ戦争の転換点になる」と言われてきた5月9日──ロシアにとって重要な対独戦勝記念日を迎え、プーチン大統領の暴走はどこへ向かうのか。新たなステージに突入した戦争の展開について、筑波学院大学教授の中村逸郎氏に話を聞いた。
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ウクライナ侵攻に対する経済制裁で、ロシア・プーチン政権が窮地に陥るのは明白だ。そうしたなかで私は「北方領土を取り戻す最大の好機」が訪れると考えている。
北方領土返還については、過去にもチャンスはあった。1991年のソ連崩壊直後には、ルーブル紙幣が紙くず同然となり、ロシア・エリツィン政権は日本の経済支援を歓迎して「二島返還」に前向きな姿勢を見せていた。1994年の北海道東方沖地震では北方四島も大きな被害を受けたが、この時の日本からの人道支援も有効だったはずだ。
橋本龍太郎首相とエリツィン大統領によるクラスノヤルスク会談(1997年)では“2000年までに領土問題を解決する”との合意がなされ、返還への機運がこれまでにない高まりを見せた。しかし、「四島一括返還」にこだわる日本政府は、千載一遇のチャンスを逸してしまった。
その後、強力なリーダーシップでロシアをエネルギー大国として復活させたプーチン大統領は、森喜朗元首相や小泉純一郎元首相らを相手に一進一退の交渉を続けてきた。
なかでも安倍晋三元首相は「ファーストネームで呼び合う仲」だとプーチン氏との親密さをアピールし、日本国内でも返還の期待が高まった。だが、プーチン氏は北方領土を返す気などさらさらなかったと思われる。
プーチン氏は(北方領土問題を)日本から様々な支援や妥協を引き出すための「交渉材料」と判断した可能性が高い。ある時は強硬姿勢を見せ、またある時は二島返還の妥協的な素振りを見せた。実際、日本政府はロシアとの平和条約交渉に向けた経済協力費として2016年から6年間で約200億円を投じてきたが、今年3月、ロシア外務省は平和条約締結交渉の一方的な停止を発表した。プーチン氏からすれば、日本を交渉で手玉にとってきただけなのだと思う。