食品ジャーナリストの郡司和夫さんによると、欧米ではBPAは2010年代から危険視されており、いまでは「BPAフリー」と明記されたプラスチック製品も多く販売されている。
「現在はBPAの使用されていない製品が増えていますが、北京大学と岐阜薬科大学の共同研究によると、BPAフリーの製品に含まれている代替物質の『フルオレン-9-ビスフェノール(BHPF)』にも、女性ホルモンのエストロゲンの働きを阻害する作用があることがわかったのです。マウス実験では、子宮が大きくなったり、生まれてきたマウスの体重が軽くなるなどの結果が報告されました」(郡司さん)
身の回りのかく乱物質は、BPAだけではない。近年の研究では、可塑剤のフタル酸エステルの一種であるフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)が、子供の第二次性徴を極端に早めたり、遅らせたりするとわかり、玩具への配合が禁じられている。
「フタル酸エステルは、食品包装のほか、床材、マニキュアのひび割れ防止剤、ヘアスプレーの詰まり防止剤、香料の持続剤として使用されることがある。また、同様に内分泌かく乱作用のある紫外線吸収剤のUV-Pは、ペットボトルのふたやレジ袋など、さまざまなプラスチック製品に添加されています」(高田さん)
もはや、ペットボトルやレジ袋を触らない日の方が少ないだろう。日常生活に欠かせないあらゆるものに“毒”が含まれ、私たちの体に少しずつ蓄積しているのだ。
脳をダマして侵入する“肥満物質”
肥満を促進するかく乱物質のことをまとめて「オビソゲン」と呼ぶ。オビソゲンは、かく乱物質の中でも特に女性ホルモンに構造が近く、脳を“ダマして”体内に侵入してくる。
「本来は『脳関門』という関所の働きにより、こうした有害物質は脳の中に入ることができません。しかし、オビソゲンはその構造から、脳関門を突破して、ホルモンバランスに影響するのです」(郡司さん・以下同)
オビソゲンの中には、主にアメリカなどで肉牛の成長促進剤として使われているものもあるという。
「正常な遺伝子を肥満遺伝子に変えることで、血糖値を下げる働きのあるインスリンの分泌を狂わせ、太りやすくします。これにより、肥満や糖尿病のリスクが上がることも考えられるでしょう。実際に、糖尿病患者の血液からは、かなりの確率でオビソゲンが検出されています」
日本では家畜への成長促進剤の使用は禁止されている。しかし、南米では促進剤を使った牛肉を食べていた女の子に、10才未満で初潮が来るなど、異常な発育が見られ、問題視されている。
「オビソゲンはホルモンをかく乱する作用があり、不妊や月経の問題とも関連します。さらに、腸の粘膜にダメージを与え、そこから毒が入り込む『リーキーガット症候群』を引き起こす可能性も指摘されています」(賀来さん)