柔道界に新たなスターの誕生だ。体重無差別で日本一を決める全日本柔道選手権(4月29日)で、斉藤立(20)が優勝した。
斉藤は、ロス(1984年)とソウル(1988年)で五輪2連覇を果たした斉藤仁氏(享年54)の次男で、現在は国士舘大学の3年生。親子2代での優勝は史上初の快挙だ。スポーツ紙記者が語る。
「180cm、143kgだった父(仁)よりひと回り大きい191cm、165kgの斉藤は、5歳で柔道を始め、ジュニア時代から活躍。高校で柔道の名門・国士舘高校に入学してからは高校総体を連覇しています。今回の優勝で斉藤は、2年後のパリ五輪候補の最右翼となった」
斉藤の強さを支え続けてきたのが、やはり父の存在だった。幼い頃から柔道用の畳を敷いた自宅の和室で父の指導を受けてきた斉藤。中学1年生時の父の死をきっかけに、より一層稽古に励んだという。
今回大会の優勝時も「褒められることはないと思う」と亡き父への思いをにじませていた。
そんな斉藤の柔道に、父・仁氏の国士舘高校時代の恩師である川野一成氏(国士舘中学・高校柔道部の総監督)は、父の影を見る。
「風貌は似ているというか、オヤジそのものだね。体つきも足の運びもオヤジそっくり。体の柔軟性も受け継いでいる。斉藤(父)は亡くなる前、息子には基本を叩き込んだと言っていたが、それが今になって芽が出てきた感じだね。素材、素質はオヤジ以上のものを持っていると思う」
しかし、父を超えるにはまだまだ課題が残るという。
「今、オヤジの現役時代と戦っても敵わないだろうね。オヤジと違うのは寝技。相手が潰れた後に寝技に移行するスピードは、斉藤(父)のほうが圧倒的に上。オヤジは寝技を研究し、繰り返し稽古した。そして何より必要なのは、ずっと鎬を削り合えるようなライバルの存在。斉藤の現役時代には山下会長(山下泰裕)という好敵手がいたが、そういう目標や相手を見つけられれば、もっと強くなるだろうね」(川野氏)
柔の道の歩みは、これからも続く。
※週刊ポスト2022年5月20日号