5月10日、韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が大統領に就任した。特使として訪韓した林芳正外相と面会し、「岸田首相と日韓関係の改善のために一緒に努力していきたい」と発言したものの、就任演説では日韓関係への言及を避けた。
大統領選では、日韓関係の修復をしきりに訴えてきた尹大統領のトーンダウン。影響を与えたとされるのが、就任直前に起きた一件だった。
「大統領選で戦った『共に民主党』の李在明氏が、6月の国会議員補欠選挙に出馬表明しました。韓国では、大統領選で敗北した候補は、しばらく政界から身を引くのが通例で、続けて選挙に出るのは極めて異例です」(在韓ジャーナリスト)
李氏は大統領選で「日本はまず謝罪を」と訴え、厳しい反日政策を掲げた。選挙に敗れたものの得票差はわずか0.7ポイントと接戦だった。元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏が語る。
「互いのスキャンダル合戦で勝敗が決まった感があり、尹大統領の対日協調路線が国民から支持されたとは言えません。就任演説で、対日政策に触れなかったのは、直前に李氏が補選への出馬を表明したことが影響したと見られています。日韓関係に踏み込んだ発言をして世論の反発を招くと、李氏への追い風となる」
韓国国会は「共に民主党」が議席の約6割を占め、この勢力図は2024年まで変わらない。
「李氏が出馬する仁川は、弁護士として労働争議に関わってきた地盤とも言える地域で、李氏有利と見られています。李氏が国政に進出すると、国会が大統領選の延長戦になるでしょう。尹大統領は少数与党体制で政策を履行するため、野党に譲歩した政権運営を行なわなければならない。今回の補選の結果次第では尹大統領の対日融和路線は早々に方向転換を迫られることになる」(前川氏)
これまで何度も繰り返してきた韓国大統領の「反日転向」。不穏な空気がすでに漂っている。
※週刊ポスト2022年5月27日号