今季のプロ野球で俄然注目を集めることになったのが「審判」だ。令和の怪物・佐々木朗希(20・ロッテ)に対する白井一行・審判員(44)の“詰め寄り”騒動が尾を引いているが、この状況を他のプロスポーツの審判はどのように見ているのだろうか。現在、国技館で開催中の大相撲で、立行司(行司の最高位)を務めた人物に聞いてみた。
白井球審が佐々木に詰め寄った4月24日以来の“再会”となった5月13日のオリックス-ロッテ戦(京セラドーム大阪)では、場内アナウンスで「二塁・白井」とコールされると拍手が起き、翌日のスポーツ紙も佐々木の背後に白井塁審が入り込む“ツーショット写真”を掲載した。
この日は特に事件は起きなかったものの、この3連戦では翌14日にロッテの井口資仁・監督がストライク判定を巡る抗議で退場処分に。試合後、井口監督は「退場になったって構わない。しっかりジャッジしてほしいということを言っただけ」と語った。さらに15日の第3戦では球審を務めた白井審判員のストライクコールにロッテのレアードが抗議した際、暴言を吐いたとして退場となった。
こうした騒動について、大相撲の第37代木村庄之助(72。以下「37代庄之助」)はこう語る。
「私もたまたまテレビであのシーン(佐々木に白井球審が詰め寄った場面)を見ていたんです。実は大相撲でも行司の軍配に対して“差し違えじゃないのか”という顔をする力士もいるんです」
「行司には野球の審判のような権限はない」
ただし、行司は野球の審判とは大きく異なると話す。最も大きな違いは、行司は判定こそ行なうものの「審判ではない」という点だ。
「相撲にも行司の軍配に異議を唱える『物言い』という制度がありますが、これができるのは力士ではなく、土俵下にいる審判員(審判部に所属する親方)です。物言いがつくと土俵上で協議が行なわれますが、行司は意見を言えるものの決定権はない。もちろん信念を持って軍配を上げているのですが、行司にはプロ野球の審判のような権限はないのです」(37代庄之助)
そのためか、軍配に不服な力士が行司をにらみつけたりする場面はほとんどなく、土俵下の審判員に“物言いをつけてほしい”という表情を送ることが多いのだという。言うなれば、行司は「審判員のアバター(分身)」でしかないというわけだが、プレッシャーは非常に強い。立行司が左腰に帯びる小刀には「差し違えた場合は切腹する」という意味がある。また、角界では差し違えのことを「行司黒星」と呼ぶ。
「もちろん“そういう覚悟”で土俵に上がっているということで、軍配を間違えるたびに切腹はできないですけどね(苦笑)。それでも三役格以上の行司が差し違えた場合は、その日のうちに理事長に進退伺を出ださないといけません。1場所で2度の差し違えで謹慎処分が出たケースもある。私は木村庄之助と式守伊之助(木村庄之助と並ぶ立行司の名跡)を9場所ずつ務めましたが、その間に1回も行司黒星はなかった。それが私の誇りだね」(37代庄之助)