ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、岸田文雄・首相は5月9日に、「ロシア産石油の原則禁輸」を発表した。さらに今後、石油だけでなく、ロシア産の天然ガスや石炭の禁輸に踏み切る可能性もある。もしもそうなった場合、日本国民の生活にどんな影響が想定されるのか。
まず、家計の負担がずっしりと重くなる。日々の電気・ガス料金からガソリン代にいたるまでエネルギー関連のさらなる値上がりがやってくる。国際経済分析に詳しい、みずほ証券エクイティ調査部チーフエコノミスト・小林俊介氏が説明する。
「原油価格が40ドル上昇したことで、この1年間で日本の家計がこうむるエネルギー負担は4兆円増えたと試算されています。国民1人あたり年間3万円の負担増です。
石油価格上昇は液化天然ガス(LNG)の価格にも連動するため、各国の禁輸措置に伴うさらなる高騰で仮に原油が1バレル=200ドルになれば、これまでのざっと3倍の国民1人あたり10万円、4人家族であれば年間40万円の負担増になると考えられます」
日常生活にも厳しい制約が出る。電力不足による「ブラックアウト(大規模停電)」だ。
3月22日に起きた“電力危機”は記憶に新しいだろう。最大震度6強を記録した「福島沖地震」の影響で、東京と東北エリアの火力発電所7基が停止しているところに、異常な寒波が重なって電力需給が逼迫。萩生田経産相が「最大限の節電に協力をお願いする」と緊急会見して需給逼迫警報を発令、一時は東京など首都圏を含む最大300万軒という大規模な停電の発生が予想された。
資源エネルギー庁で電気・ガス政策を担当した元経産官僚の政策アナリスト・石川和男氏が解説する。
「3月は国民の節電がなければ本当にブラックアウトになるレベルだった。政治と行政が国民に甘えて乗り切れただけの話です。現在、日本の電源構成は8割近くを火力発電に頼っているが、石油火力は1割しかない。残りは天然ガス発電と石炭発電がほぼ半々です。
政府は今年の夏のピーク時の電力の予備率を7~8%としているが、酷暑で多くの人が冷房の温度を下げればひとたまりもないかもしれない。そのうえ夏までにロシア産の天然ガスと石炭を禁輸する事態になれば、たちまち電力不足に陥って今度こそ計画停電を実施しないと乗り越えられないでしょう」