さらに、米ピッツバーグ大学の研究者らが2000年に医学雑誌で発表した論文ではこんな結果が示されている。
55~81歳の女性6459人を平均3.8年間にわたって追跡調査したところ、骨折が起きなかった場合と比較して、背骨が折れた人は8.6倍、股関節が折れた人は6.7倍、死亡率が上昇するというのだ。
なぜ、骨卒中は死に直結するのか。骨粗しょう症専門外来を設置している「むつみクリニック」の金光廣則院長はこう語る。
「若い世代は骨折しても時間とともに治癒しますが、ご年配の方が骨折すると、元の日常生活が満足に送れず、寝たきりにつながるケースが多いです。
それによって、全身の状態が悪化して心肺機能が低下し、心不全や肺炎を起こしやすくなります。また、骨折後に寝たきりになって生命予後が落ち、合併症で死亡するケースが少なくない。手術をしても亡くなることがあります」
しかもこの先、死を招く骨卒中はさらに増える可能性があるという。
「超高齢化で寿命は延びたものの、筋肉量の減少や歩行・バランス能力の低下に加え、運動機能が衰えることで骨卒中の患者が激増すると予測されています。たとえば2007年時点で、年間14万~16万例があった大腿骨近位部骨折は年々増加しており、2035~50年にかけて患者数が約30万例に達すると試算されています」(金光氏)
一方、「注意が必要なのはリタイア後の高齢を迎えてから」と高を括るのは禁物だ。
骨卒中のサインは50代から生じる。萩野氏が語る。
「高齢になってから骨折する人は、50代以降で手足のどこかを骨折した経験を持つ人が多い。その時点ですでに骨が脆くなっているサインなので注意が必要です。また、骨卒中につながりうる背骨の骨折は、60代から目立ってきます。『自分はまだ大丈夫だ』と思わず、現役のうちから骨卒中に備えた心がけが必要です」
たかが骨折と軽んじてはならないのだ。
※週刊ポスト2022年5月27日号