日本人の死因の上位を占める「がん」「急性心筋梗塞」「脳卒中」。この三大疾病と同等以上のリスクをはらむ“新病”が、医学会で注視されている。その病は「骨」から始まり、やがて全身を蝕むという。
都内在住の女性・Aさん(40)が悲痛の思いで語る。
「2年前に65歳の父が自宅のお風呂で転倒して、脚の付け根部分(大腿骨近位部)の骨を折って入院しました。人工骨を挿入する手術をしましたが、術後に治療やリハビリが思うように進まず、元のように歩けない状態が長引くばかりでした」
Aさんは、“たかが骨を折っただけ”と思い込んでいたという。
「しかし、いつまで経っても治らず、次第に足腰も弱まり、今年に入ってからとうとう寝たきりの生活になってしまいました。あの2年前の転倒さえなければ、父はまだまだ元気だったと思います」
近年、Aさんの父親のような事例が専門家の間で危惧されている。鳥取大学医学部保健学科教授の萩野浩氏が語る。
「高齢になってからの骨折は軽く見られがちですが、実はがんや脳卒中と同じくらい高齢者の生活の質(QOL)を低下させ、最悪、生命を脅かす場合があります。
近年、危機感を抱いた日本骨粗鬆症学会は、こうした命にもかかわる骨折を『骨卒中』と呼び、多方面に警鐘を鳴らしています」
骨卒中の危険はデータが物語っている。
「たとえば大腿骨近位部を骨折した50~104歳の男女753人を10年間追跡した日本の研究によると、患者の生存率は1年間で81%、5年間で49%、10年間で26%でした。2人に1人が5年以内、4人に3人が10年以内に亡くなる計算で、一般人口の生存率と比べて非常に低い数値です」(萩野氏)