放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、初鰹の季節に思い出す落語について綴る。
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「目には青葉 山ほととぎす 初がつお」。“目に青葉”と言いがちだが正しくは“目には”である。
初鰹の季節だなとボンヤリ考えていたら、たしか鮮烈に初鰹が出てくる噺があったなと『髪結新三』を想い出し三遊亭円生のDVD全集を見る。元々はこの演題は歌舞伎で『梅雨小袖昔八丈』。河竹黙阿弥が五代菊五郎にあてて書いた狂言とされる。その後数人の噺家によって高座にかけられるも途絶えて、昭和36年にかの円生が復活させ話題に。家主が小悪党の新三のところから鰹の半身をせしめていくところなぞ壮快。初夏の江戸風情と貧乏長屋。警察など無かった江戸の昔、大家こそが法であり掟だったのだ。
しかし哀しいかなこの円生DVDには長い噺の『髪結新三』(上と下)の「下」が収録されていない。あわてて私のCD棚をさがすと、ありましたよ五街道雲助のものが。芝居がかって気持ち良さそうに新三を演じている。
なんせ新三って野郎は悪い野郎で大店のお嬢さんを今で言う“拉致・監禁”。興味があったら今の季節の噺なので聴いてみて下さい。
そんな時、4月28日新宿紀伊國屋ホールで柳家三三「『髪結新三』通しがたり」があるとききすぐにとんで行った。様子のいい三三のシュッとした新三が出てきた。言ってみれば「三三さんざん新三」である。
そして前にも書いた「談春五夜」、5月7日の千秋楽は2時間近い「上下の通し」(浅草公会堂)。歌舞伎には『三人吉三』という名作があるがこっちはこの節『四人新三』の日々。