高齢になってからの骨折は、治りも遅く、次第に足腰も弱ってくるため、想像以上に生活の質(QOL)を下げる。最悪の場合、生命を脅かす可能性もあるのだ。日本骨粗鬆症学会は、命にもかかわる骨折を『骨卒中』と呼び、多方面に警鐘を鳴らしている。
特に高齢者はどういったシチュエーションで骨折することが多いのか。鳥取大学医学部保健学科教授の萩野浩氏が語る。
「骨折と転倒の関係を調べた研究では、手首の骨折の96%、肩の骨折の95%、大腿骨近位部の骨折の92%が、転倒が原因で起こっています。歳を重ねると転倒しやすくなる大きな要因は運動機能の衰えで、加齢とともに筋力やバランス感覚、瞬発力や柔軟性などが衰えて、転びやすくなります」
また、原宿リハビリテーション病院名誉院長の林泰史氏は、「薬」と転倒の関係を指摘する。
「睡眠薬を服用していると夜間や朝方にふらつきやすくなり、降圧剤の場合は薬が効きすぎて低血圧でふらつく場合があります。糖尿病治療薬も血糖値が下がりすぎて低血糖状態になってふらつくことがある。年配者ほど薬の服用割合が増えるため、ふらつきによる転倒に気を付けてほしい」
目に見えないが、深刻なリスクファクターとなるのが「隠れ骨折」である。骨粗しょう症専門外来を設置している「むつみクリニック」の金光廣則院長はこう語る。
「基本的に骨折は痛みを伴いますが、背骨に関しては折れても気づきにくく、レントゲンを撮って初めて分かる『隠れ骨折』が起こります。特に年配者は、脆くなった背骨にヒビが入ったり骨折したりしても、『ぎっくり腰かな』と放置するケースが多々ある。
これは“自分が気づかないうちに骨折するほど骨が脆くなっている”ということ。他の部位も折れやすい状態になっている可能性が高く、骨卒中のリスクがあります。
若い頃と比べて2~3cm以上身長が縮んだ人は、脆くなった背骨が圧迫され、隠れ骨折している可能性があるので、『ここ数年で背が縮んだ』という人は医療機関を受診してほしい」
※週刊ポスト2022年5月27日号