朝ドラともなれば色々な人が色々なことを言うものである。大人力について日々研究するコラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
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テレビの視聴者は、番組について好き勝手なことを言います。昔は家の中で画面に向かって言うだけでしたが、昨今はtwitterなどのSNSやネットニュースのコメント欄などを通じて、それぞれの声が可視化されるようになりました。
視聴者はひとりでドラマを見ていたとしても、twitterに感想を書き込んだりハッシュタグを活用して多くの人の声を読んだりすれば、大勢でワイワイ言い合っている気になれます。とくにドラマを存分に楽しむうえでは、もはやSNSは欠かせないツールと言えなくもありません。
ひときわにぎやかな感想戦が繰り広げられるのが、NHKの朝ドラ。4月頭まで放送されていた「カムカムエヴリバディ」に対しては、ドラマに魅せられた視聴者が毎日たくさんの称賛や応援の声を上げていました。関係者一同、さぞ嬉しくさぞ張り合いがあったことでしょう。
しかし、いったん風向きが変わると、SNSはその凶暴な本性をむき出しにします。世の中で「悪者」と認定された人に対する容赦のなさと同じように、いったん「面白くない」というレッテルが貼られた作品には、まったく容赦ありません。多くの人が「いかに面白くないか」「どこがダメか」を競って語ろうとします。そうなってしまうと、実際に面白いかどうかや、自分が本当はどう感じているかは関係ありません。
ところで、話はコロッと変わりますが、現在放送されているNHKの朝ドラ「ちむどんどん」にも、twitterをはじめとするSNS上に賛否両論さまざまな意見が書き込まれています。何となく否定的な意見が目立つようにも見えますが、ネットの特性上、自分が目にしたい意見ばかりを見つけてしまっている可能性もあるので何とも言えません。
迂闊に世間の風向きに忖度して評価を下すのは避けたいところ。たくさんのプロのスタッフが英知を結集して、プロの役者さんが全力で演じてくれているんですから、面白くないわけがありません。ご都合主義にも感じられるストーリー展開や、どう受け止めていいか迷うキャラクター設定も、きっと深い考えや今後への布石があってのことです。
5月16日からの週では、主人公の比嘉暢子が東京での料理人修行をスタートさせました。きっとこれからウソのようにストーリーが盛り上がり、誰もが素直に魅力的と思えるヒロインに生まれ変わって、脇役の言動に首をかしげることもなくなるはず。今のところ違和感を覚えている視聴者も、一気にドラマの世界に没入させてもらえるはずです。
「ちむどんどん」とは、沖縄の方言で「心がワクワク、ドキドキする」という意味。もちろん、心の底から毎日ちむどんどんして、ドラマを楽しんでいる方は多いでしょう。その気持ちに水を差すつもりは毛頭ありません。いっぽうで、あーだこーだ文句を言いながら(SNSに文句を書き込みながら)見続ける道もあります。
ドラマというのは、満足できなければ見るのをやめればいいだけ。誰も強制はしていません。しかし、朝ドラの場合、とくに見ることが長年の習慣になっていると、たとえ好みに合わなくても気軽に「離脱」しづらいのが厄介なところ。それが朝ドラの恐ろしさであり、視聴者を簡単には離さない底力です。