5月8日に公表された朝日新聞社と東京大学の共同調査では「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」と考える人の割合が2003年の調査開始以来、初めて6割を超える結果になった。ウクライナ戦争の影響とみられるが、それでもまだ日本人の危機意識、防衛意識は低いと言わざるを得ない。防衛大学校国際関係学科教授の宮坂直史さんが言う。
「いまの日本人は戦争が起きて自国が攻められるかもしれないということが想像できず、他人事になっている。“外交は国がやること”“防衛は自衛隊がやること”という意識があって、自分のこととは思っていないのでしょう。第二次世界大戦の時期は日本のどの家の近くにも防空壕があり、空襲警報が鳴れば逃げ込むという体験をしたはずなのですが、すでに忘却のかなたです」
日本人は「平和ボケ」と揶揄されるが、残念ながら実態を的確に表現した言葉なのかもしれない。その理由について日本大学危機管理学部教授の小谷賢さんはこう説明する。
「ヨーロッパや中東などの国々は歴史上、戦争を繰り返した結果として今日がある。そのため安全保障に対する意識が非常に高い。近代以降、日本は日清戦争、日露戦争、そして第二次世界大戦の3つしか経験していませんし、直接本土攻撃を受けたのは第二次世界大戦だけ。しかも戦争の記憶も失われつつあり、戦争や核兵器が遠い世界の話になっているのです」
実戦から遠ざかっていられたことは喜ばしいが、いざというときの備えができないほど「平和ボケ」していては、私たち自身や家族を守れない。
軍事力を保有するウクライナでさえ、実際にロシア軍の侵攻を受けると一方的に攻められ、住民は逃げ惑うほかなかった。どこをどのように攻撃するかは敵国次第であり、正確に予測するのは困難で、だからこそ、あらゆる危機を想定した訓練が必要なのだ。日本でも外国の侵攻を想定した訓練は行われているが、理想とかけ離れているようだ。
「行政や警察、自衛隊、医療機関などが参加した訓練が各地で行われていますが、式典化してしまっている。日本人は完璧を求めがちで、うまくマニュアル通りに動けたという訓練でないと気がすまない。しかし、それでは無意味です。何ができて、何ができないのか実際にやって初めて課題が浮かび上がりますが、そういった応用を嫌がるのが日本人の悪いところです」(宮坂さん)