ロシアの平均寿命は欧米先進国の平均より10歳以上低く、2020年のデータで男性は67.3歳(世界銀行、国連調べ)。プーチン大統領は現在69歳であり、すでにロシアの平均寿命を超えている。
実際、プーチン氏には深刻な健康不安説も囁かれており、いつ来るか分からないXデーに備えて、その後継者が誰になるか、世界中が注視している。
これまで名前が挙がっていたのはセルゲイ・ショイグ国防相だったが、ここにきてダークホースと呼べる人物が急浮上している。きっかけは、ウクライナ出身のレーシングドライバー、イゴール・スシュコ氏が、5月10日にある動画をツイッターで公開したことだ。国際ジャーナリストの山田敏弘氏はこう話す。
「背の高い30代くらいの男性とプーチンが、赤の広場を歩きながら熱心に話し込んでいる姿を録画したもので、プーチン氏が男性を手招きし、40秒ほど話しながら歩いたあと、ショイグ国防相が2人の間に割って入ったところで終わる。スシュコ氏は『プーチンの手駒ではないかと噂されている』とツイートしています」
ツイッターで公開されると、その男性はまたたくまに特定され、大統領府の局長クラスとされるドミトリー・コヴァリョフ氏であることが判明した。国際関係アナリストの北野幸伯氏が説明する。
「オムスク州出身の36歳で、ロシアのメディアは『大統領府の局長』と報じていましたが、ロシア連邦保安庁(FSB:前身はKGB)に勤務していて、プーチン氏から直接秘密指令を受ける『大統領の副官だ』とする報道もあります。ロシアの石油最大手ロスネフチのアイスホッケーチームでプレーしていて、プーチン氏とは共通の趣味を通じて緊密になったといわれています。コヴァリョフ氏の父親は、国営ガス会社ガスプロムの子会社の代表取締役だともいわれています」
大富豪の子息で、背が高くイケメン―確かに見栄えはいいが、36歳という年齢は若すぎる感がある。なぜ急にこのコヴァリョフ氏が後継者として浮上してきたのか。
「ウクライナ侵攻前まで、最有力候補はショイグ国防相でしたが、侵攻が長引き苦戦を強いられているため、その線は消えたといわれている。
プーチン氏は、後継者にするなら、政権基盤が弱く操りやすい人物を選ぶでしょう。要するに院政を敷きたいわけです。彼は2008年に大統領の座をメドベージェフ氏に譲りましたが、それも操りやすい人物だったからです。もう一人の候補とされるパトルシェフ安全保障会議書記は影の実力者ですが、力が強すぎる。そういう意味で、若くて基盤のないコヴァリョフ氏は、後継者候補として有力だと考えられます」(北野氏)
院政を敷くために、若くて政治力のないコヴァリョフ氏を後継者に選ぶ可能性があるというのだ。