【著者インタビュー】高瀬隼子さん/『おいしいごはんが食べられますように』/講談社 /1540円
【本の内容】
物語の舞台は≪食品や飲料のラベルパッケージの製作会社≫の埼玉支店営業部。入社7年目の「二谷」と、一年後輩の「芦川さん」、そのさらに一年後輩の「押尾さん」を中心に描かれる。芦川さんは仕事ができない。そんな芦川さんのことを周りが理解し、優しく接するのが押尾さんは《むかつく》。二谷は言う。《「職場で、同じ給料もらってて、なのに、あの人は配慮されるのにこっちは配慮されないっていうかむしろその人の分までがんばれ、みたいなの、ちょっといらっとするよな。分かる」》。意気投合する二人だが、なぜか二谷は芦川さんと付き合い始める。やがて職場で事件が──。きっと誰の周りにもある、釈然としない人間関係を鮮やかに描き出した職場恋愛小説。
自分の中にも、どの職場にも二谷のような人はいる
ほどよく肩の力が抜けたタイトル、白と黄色の表紙カバーのイラストもかわいいが、よく見ると、コンロの片手鍋に人影がぼんやり写りこんでいて、ちょっと不穏な感じも漂ってくる。
高瀬隼子さんの話題の新刊は、若い男女の恋愛小説であり、仕事についての小説でもあり、「食べること」をめぐるコミュニケーションについても考えさせる。書き出しがすばらしい。
《昼休みの十分前、支店長が「そば食べたい」と言い出した。「おれが車出すから、みんなで、食いに行くぞ」》
昼休みぐらい上司と離れていたい部下の気持ちや、そばアレルギーの有無などぜんぶ無視する職場の空気がもわっと吐き出されるようで、この小説を「職場ホラー」と呼ぶ声もあるらしい。
「もともとは男性が主人公の恋愛小説を書くつもりで、プロットは立てず、二谷の視点でとにかく書き始めたんです。二谷は仕事が忙しくて自炊もできない。二谷に芦川さんという恋人ができて、土日になると、二人は外に遊びに行かず二谷の家で芦川さんが料理するようになり、『なんでだろう?』と気になって。そこから、『ごはん』について広げて書いてみようと思いました」