厚生労働省の「平成29年患者調査」によると、同年、眼科にかかった総患者数は国内で約370万人。過去10年で約90万人増加しており、さらにうち約226万人を65歳以上の高齢者が占めている。社会の高齢化やデジタル化とともに、目の病気は増加の一途をたどっているのだ。
重篤な症状に陥る前にまず頼るべきは眼科医だが、その技術と姿勢は千差万別。医者選びの基準を知っておきたい。
高知県在住・70代男性のAさんは昨年4月、都内に住む孫娘に小学校の入学祝いをするため、筆を執った。デジタルの世界を生きる孫に、手書きの手紙の良さを伝えたい─―だがいざ宛先を書き始めると、どうにも様子がおかしい。
「郵便番号の赤い枠がぼやけて歪んで見える。本文を書いていてもなぜか文字の大きさがバラバラで、美しさとはほど遠い。最近どうも新聞の文字がぼやけるとは感じていましたが、まさか思い通りの字が書けなくなるなんて……」
Aさんは久々に眼科を受診。診断結果は重度の白内障だった。
白内障とは、目の中で「カメラのレンズ」の役割を果たす水晶体が、加齢とともに白く濁る病気。正常な水晶体は透明で光をよく通すが、濁ってくると光が通らなくなる。二本松眼科病院副院長の平松類医師は語る。
「視界がぼやけたり、モヤがかかってかすんで見えたりするようになります。老化が進めば誰もが罹患する病気で、放置すれば失明に繋がることもある」
白内障は、60代で74.5%、80代以上は99.9%の人が発症するとされる(「白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」、2020年)。
軽度の場合は目薬で進行を遅らせ、経過観察する。日常生活に支障をきたすレベルになれば、眼球に細いメスを入れて濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズに置き換える手術を行なうのが一般的だ。手術は10~20分ほどで終了し、年間およそ140万件行なわれている。
その際に失敗例となりやすいのが、「水晶体嚢(のう)の破損」だ。吉祥寺森岡眼科院長の森岡清史医師が解説する。
「水晶体が入っている薄い袋状の膜を水晶体嚢といいますが、加齢等の影響で破れやすい状態の人もいて、手術時執刀医には高いスキルが要求される。結果、奥側に位置する『後嚢』という部分を誤って破ってしまうことがあります。後から入れる眼内レンズがうまく入らず、元々の水晶体があった場所よりも手前に眼内レンズを固定することになる。光の屈折率や眼内レンズの度数が変化して、視力改善効果が得られないことがあります」