年齢を重ねれば、必ず向き合わなければならないのが「目の悩み」だ。重篤な症状に陥る前にまず頼るべきは眼科医だが、その技術と姿勢は千差万別。人生を暗転させないために、医者選びの基準を知っておきたい。
緑内障、白内障と並んで高齢者の目を悩ませるのが加齢黄斑変性だ。網膜の中心部にあり、“視覚の中枢”と呼ばれる『黄斑』が損傷し、物が歪んで見えたり、視力が低下してぼやけたりする病気で、進行すると視力が急激に低下し、最悪の場合は失明する。
50歳以上の約2%に症状がみられ、近年は患者数が急増中だ。欧米では成人の失明原因トップで、日本でも視覚障害の原因第4位であり、国が難病に指定する。
治療は手術ではなく、「抗VEGF薬」を眼球に直接注射し新生血管の発生や成長を防ぐ方法が主流だが、ここにも「恐ろしい合併症の例がある」と、南大阪アイクリニック院長の渡邊敬三医師は語る。
「注射をする際は水晶体の横から針を入れますが、ひとつ間違うと針が水晶体に触れる危険があります。すると水晶体が白濁して外傷性の白内障を発症し、手術が必要になる。さらに注射針によって水晶体嚢が破損した場合は、白内障の手術の難易度が上がります」
注射後、徐々に視界が白っぽくなるなど目が見えにくくなったら、白内障の併発が疑われる。こうしたリスクを避ける治療法として注目されるのが「光線力学的療法」だ。吉祥寺森岡眼科院長の森岡清史医師が語る。
「光に反応する薬剤を体内に注射し、病変部に弱いレーザーを当てる治療法です。加齢黄斑変性の原因となる新生血管の治療に有効で、治療成績も優秀です。
抗VEGF注射は1~2か月ごとに1回注射するのが一般的ですが、光線力学的療法は1回で治療が終了するケースも多く、費用対効果に優れています」
このような最新治療を含む、多くの選択肢を積極的に提案してくれる医師は高い専門知識を備えているといえる。渡邊医師が語る。
「症例や体質の違いによって、ひとつの治療法がメリットになるケースもあれば逆にデメリットになるケースもある。『この患者にはこの治療法を』と慢心し決めつけるのではなく、多くの治療法を多方面から紹介できる医者が、本物の眼科医ではないでしょうか」
※週刊ポスト2022年6月3日号