日本がますます高齢化への道を歩む中で、真剣に考えるべき問題が高齢者の運転。警察庁が「免許返納」を勧めている流れもあり、最近では、西川きよし(75)や二之湯智・国家公安委員長(77)など有名人の免許返納が相次いでいるが、一方で「それでも免許は返納したくない」という人たちもいる。俳優・谷隼人氏(75)に聞いた。
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ドラマや映画でのアクションシーンのイメージが強いかもしれませんが、こう見えて安全運転派で、擦ったこともありません。今も仕事や買い物で週4~5回は運転しています。
もともとはオートバイが好きで、16歳から乗っています。それもあって、ドラマ『キイハンター』(TBS系)ではバイクに乗るシーンが多かった。20歳で車の免許を取ってからは並行輸入のアメ車、アルファロメオ、30代になってBMW、40代から今に至るまではベンツと、年代に合わせて乗り換えてきました。
僕らの時代は、俳優としてキャリアを積んで、頑張った自分へのご褒美が車だった。「俺もこんな車に乗れるようになったんだぞ」という周囲へのアピールでもありました。だから車は移動手段のためだけでなく、それ以上のものなんです。
当時は先輩方もいい車に乗っていました。鶴田浩二さん、高倉健さんはポルシェ、千葉真一さんはスポーツタイプだった。
たとえ自分がその車を買うことができても、先輩と同じ格の車には乗ってはいけない、そんな暗黙の了解がありました。例えば健さんがポルシェなら自分はBMWというように。立場をわきまえつつ、好みやステイタスで選んでいました。
昔はひとりで早朝の海を見に行くのが好きでしたね。太陽が昇っていく様を見ていると元気が出る。仕事が忙しいなか、車はひとりになれる、リフレッシュできる大事な空間なんです。免許を返納して車と決別する自分を想像できないというのが、正直なところです。
※週刊ポスト2022年6月3日号