約2年半にわたるコロナ禍でのライフスタイルの変化により、心身の衰えた状態を指すフレイル(虚弱)などの弊害が叫ばれている。そんな中、急増している意外な症状がある。「便秘」だ。横浜市立大学大学院の肝胆膵消化器病学教室・主任教授の中島淳氏が言う。
「若い方に関してはそうでもないのですが、コロナ以降は、ご年配の方で便秘の症状を訴える人が明らかに増えています。高齢になると、蠕動という大腸の働きが低下するうえ、排便に必要な腹筋などの筋力が弱くなるため、便秘になりやすい。巣ごもり生活で運動量が減ったため、さらに便秘の高齢者が増えたのだと思います」
大便の状態を記録して腸活を実践するアプリ「ウンログ」の経営会社が、2020年にユーザー3000人を対象に行なったアンケートでは、コロナ禍で排便状況が変わったという人は50%を超え、その人のうち43.3%が「便秘になった」と回答している。
たかが便秘──と放置している人も多いだろう。しかし、高齢を迎えてからの便秘は、死を招く怖れがあるのだ。
「ご年配の方は若年者と比較して、排便時の“いきみ”の際、血圧が急上昇しやすいというデータがあります。若年者の普段の血圧は110mmHgくらいで、排便時にいきんでもさほど数値は変わりません。一方、高齢者の場合、普段の血圧は120mmHgほどですが、排便時には150~160mmHgに上昇します。便秘の高齢者はいきみが強く、長くなりがちで、通常120mmHgほどの血圧が一気に280mmHgに達するとの報告もあります。
動脈硬化が進んで血管が硬くなっていることが急上昇の原因ですが、こうして排便時に無理にいきんでしまうと、血管が破れたり詰まったりして『脳卒中』や『心筋梗塞』、『動脈瘤解離』などを発症するリスクが増加します」(中島氏)
事実、トイレで死亡する実例は、多く報告されている。藤田保健衛生大学(現藤田医科大学)救急部の統計(2006~2009年)によれば、救急搬送した非外傷性心停止907例のうち、トイレで発症したケースが101例あったと報告されている。
「埼玉県所沢市内のトイレで発症した救急搬送の症例でも、脳梗塞やくも膜下出血、大動脈解離、その他、起立性低血圧による失神や心肺停止などの死亡例が報告されています」(同前)