【著者インタビュー】浅倉秋成氏/『俺ではない炎上』/双葉社/1815円
昨年春、『六人の嘘つきな大学生』で火がつくまでは、「日の当たらない裏街道な作家生活を送ってきた」と、浅倉秋成氏、本人が言う。
「本屋大賞でも候補作10作品中で唯一プルーフ(発売前に作成する見本本)がなく、ほとんど無名状態から候補になったのも、僕くらいだそうです(笑)」
前作には現代の就活事情に限らない「今」が息づき、多くの共感を呼んだが、最新作『俺ではない炎上』もそう。公私共に充実した毎日を送る大帝ハウス大善支社営業部長〈山縣泰介〉が巻き込まれる理不尽極まりない炎上逃亡劇が浮き彫りにするのは、誰もが誰かを責め、言い訳を探し合う、ギスギスした現代の姿だ。
発端は若い女性の殺害を写真付きで告白する、〈たいすけ@taisuke0701〉の呟きだった。その〈血の海地獄〉と題した呟きを大善在住の学園大3年生〈住吉初羽馬〉が発見し、功名心半分で27番目にリツイート。記事は瞬く間に拡散され、泰介は住所や勤務先や顔写真までネット上に晒されるのだが、そのアカウント自体、50代半ばのSNS弱者には全く身に覚えがないのである。
「以前、友人や妹と話していて、気づいたんです。本はおろか、映画も滅多に観ない彼らが『これは観なきゃ』と口を揃えたのが、映画『スマホを落としただけなのに』で、明日は我が身という現代的な危機感は、普段フィクションに親しみのない人でも食指が動く強い動機になりうるんだと。
そこからこの巻き込まれ型炎上劇の構想が生まれました。主人公を年上にしたのは、ネット習熟度の問題以上に、未婚で子なしの自分に50代で妻も娘もいる泰介の感覚がどこまで書けるか、未経験の年代を描くことに挑戦したかったんです。
そんなトリックより年齢ありきで始まった炎上逃亡ミステリーではありますが、実は僕も昔、超体育会系な営業部にいたことがあって。その時に見たよくも悪くも強引な昭和イズムは違和感も含めて、かなり造形上の参考になりました」
そう。平均年収900万強の一部上場企業で順調に出世を遂げ、町田支店時代の同僚〈芙由子〉と結婚。妻の実家に近い大善市内に自社仕様の立派な家を建て、趣味はゴルフで車はベンツ。愛娘〈夏実〉にも恵まれた泰介は、誰かに好かれこそすれ、責められるような人間ではないはずだった。
だがある日、自社で今後扱う予定のコンテナハウスのショールームで担当者の〈青江〉との打ち合わせを終え、30代前半と思しき彼の万事煮え切らない態度を部下の〈野井〉と昼食をとりつつ批判していた矢先、泰介はなぜか学生に無断で写真を撮られかけ、支社長からもすぐ戻れとの緊急の電話が入るのだった。指示の通り裏口から戻ると社内の空気は重く、支社長が手にしたタブレットには公園で女性を殺害したのは泰介だとするまとめ記事が。