旧作、特に一九七〇年代の映画には独特のザラつきがあり、『仁義なき戦い』(一九七三年)をはじめ、そうした粗い質感のもたらす荒々しさや乾きが作品の大きな魅力となっていた。その質感を損なわずにデジタル・リマスターする方法について、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、東映ラボ・テックの根岸誠氏に聞いた。
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根岸:ザラつきというのは、結局はフィルムの粒子なんです。そしてその粒子はどんなに高精細にスキャンしても、そのまま出るんです。ただ、そのままリマスターすると、すごくザラザラとして、今の若い人にとって、とても見づらい画になってしまうのです。
ですがフィルムで観た記憶の強い世代からすると、「これだよ、これ」ってなるんですよね。ですから、「どの層に向けて観せるのか」という方針によって、粒子の大きさ、目立たなさを調整するんです。
──粒子一つとっても、見え方を調整しているんですね。
根岸:いろいろな調整が技術的にできるようになったので、当時は「こんな細かい粒子を持ったフィルムはなかったよね」というようなフィルムの表現もできます。
──粒子をなくすこともできれば、さらに細かくもできる。
根岸:そうです。あくまで「見た印象」の上ですが、細かくできます。
──七〇年代の映画ですと、作り手側が狙って映像を粗くしている場合もあります。一方で経年による退色で粗くなっている場合もありますよね。その違いの見極めはどうされていますか?
根岸:通常の考え方からすると、スキャンをしたときに「ああ、このシーンは間違いなく狙って粗く撮っているな」というのは、リマスターをやる技術者はわかるんです。
そのときは、コンテンツホルダーの方に「ここはこうなっているのだけど、どの程度見やすくしますか?」と聞きます。
コンテンツホルダーが「ちょっと見やすさを優先しましょう」と言えば、その度合いを調整するということは十分にあります。