【著者インタビュー】横道誠さん/『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記 』/文藝春秋/1870円
【本の内容】
著者の横道さんが発達障害の診断を受けたのは40才のとき。《いままでの僕の人生で得た多種多様な経験に、新たな光を当てられることに気がついた。そうして過去を洗いだしていくと、僕の人生は、それまでとは違った意味合いを放つことになった》。この本は、20代後半から数年の間に、診断を受ける前の横道さんが体験した海外旅行について、自らの障害を自覚したいま、当事者として振り返った旅行記。街を歩き、美術に触れ、人と話し、文学を思い出す様が障害の特徴とともに鮮やかに描かれる。
「あ、やっぱり」と、診断が出てうれしかった
ドイツ文学・比較文化研究を専門とする横道誠さんがASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されたのは2019年のこと。鬱病で大学を休職することになって精神科を受診し、発達障害だとわかったという。
「診断が出てショックを受ける人もいますが、私はうれしかったですね。自分をいたわるようになり、生きやすくなりました。中学のときの通知表に1から5まであって、『デコボコだな』と思っていたし、『あ、やっぱり』みたいな感じです。発達障害についていろいろ調べるうちに自分の謎が解けて、『これは面白い、研究しがいがある』と思いました」
発達障害の仲間と交流するようになって、自助グループの運営も始めた。人生の転機となる経験から生まれた『みんな水の中』(医学書院)は、詩・論文・小説で自身の体験する世界を描き出し、高い評価を受けた。
『イスタンブールで青に溺れる』は、これまでに46カ国を旅したことのある横道さんの紀行文だ。
「昨年12月から今年4月までウィーンに研究滞在しました。本当は10月に行くはずが、空港の出国審査で不可になりまして。飛行機の代金、滞在先の家賃など30万~40万円ぐらい失って、とっさに『「発達障害者が海外旅行をするとどうなるか」という本を出したい。関心のある出版関係者のかた、おられませんか』とツイッターでつぶやいたら、7人が反応してくださって、4つの出版契約を結びました。もともとのアイディアはまた別の本になる予定で、この本は、過去に旅行したことならこういう風に書けます、と言って、かたちになりました」
想像力が三段跳びで駆け上がっていく
ウィーンや、1年間滞在したことのあるベルリンのほか、プラハ、モスクワなど、ヨーロッパを中心に様々な土地に足を運んできた。ドイツ語以外の言語も精力的に勉強し、これまでに学んだのは約15カ国語だそう。
「ドイツ文学を専門にすると、特定の作家の特定の時期の特定のモチーフだけを研究して人生が終わるようなところがあるんです。そういうのがしんどくて、もっと自分を開いていきたい気持ちで、もともと過集中なところもあり、一時期、旅行しまくっていました。
それがあるときから、プツンと行かなくなって。ASDがあると凝り性で、ADHDは飽き性になるので、私は凝るときは凝るけど、飽きるとすぐやめてしまいます。普通に旅した先のいろんな人と交流して世界を広げることが自分にはできないんだって自分の中で結論が出て、もういいやとなったんですね」
旅の記録は、スマホでグーグルドキュメントに書いていた。アプリのアイコンが青いというのがグーグルドキュメントを使う理由で、本のタイトルに取られている「青」の色を好むのはASDの人に多いそうだ。