患者が服用する薬が今、全国的に「供給不足」に陥っている。そうした薬の多くはジェネリック医薬品(後発医薬品)だ。背景には、近年相次いで発覚した製薬メーカーの不祥事がある。
ジェネリック製造大手「日医工」(富山市)では、2020年2月、製造工程や出荷検査における長年の不正が発覚。「小林化工」(福井県あわら市)では、2020年12月、水虫薬に睡眠導入剤が誤って混入し健康被害が起きていた事実が判明した。両社とも「業務停止命令」処分を受けたことで、商品の出荷再開が遅れる事態となった。
供給不足を招いた要因がもう1つある。コロナ禍で薬の原料である「原薬」や化学物質の供給不足に陥っているという問題だ。
その原因は中国の「ゼロコロナ政策」にある。全土で物流が滞る事態が常態化している。その影響は日本にも及んでおり、薬の原料が届かず、薬の製造が予定通りに運ばない事例が多数報告されているという。
日本で使われる原薬の製造方法などを審査している厚労省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」はホームページ上で「原薬等登録原簿(マスターファイル)」を公示している。本誌・週刊ポストは2020年以降に登録された原薬のうち、中国の業者が登録した薬を抜粋し、別掲の一覧表に示した。この表を見ると、「中国産の薬」が身近な存在であることが窺える。
一石英一郎医師(国際未病ケア医学研究センター)は「降圧剤や解熱鎮痛薬など多くの人に馴染み深い薬が多いですね」と語る。
「降圧剤のARBや糖尿病治療薬のSU薬、脂質異常症治療薬のスタチン系など中高年男性によく処方されるメジャーな薬や、胃薬、解熱鎮痛薬など需要の高い薬が多いことに驚きました。製薬会社のMR(医療情報担当者)も薬の成分がどの国のものかについてまで説明することはないので、ほとんどの医師が知らないと思います。
副作用がほとんどなく使用頻度の高い胃腸薬テプレノンや、胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬のエソメプラゾールマグネシウム水和物もある。後者は逆流性食道炎などに処方される薬ですが、その原薬が中国産だとは知りませんでした」
2021年1月には、痛風治療薬のフェブキソスタットが立て続けに4件登録されている。ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師はこう語る。
「(同薬は)最近先発薬の特許が切れたもので、今年2月に厚労省が後発品として多数承認しました。その開発に向かう昨年の時点で、複数の中国企業が製造を始めたのではないでしょうか」