持病が多くなる高齢者ほど、服用する薬の数が増える現実がある。厚労省の統計によると、75歳以上で「5種類以上」の薬を処方された人は40.7%(院外)に上る。65~74歳では同27.2%、40~64歳では同22%だった(2020年6月)。
「多剤併用」にはリスクがつきものだ。一石英一郎医師(国際未病ケア医学研究センター)はこう語る。
「薬の種類が多いほど、飲み合わせにより薬が効きすぎる、あるいは効果を打ち消しあってしまう可能性が高まります。また、高齢になると肝臓や腎臓の薬を代謝・排泄する機能が低下し、薬が体内に長く留まるようになるため、薬の副作用リスクが高まります」
薬をなるべく飲まずに健康を維持できるのが最善の道だが、患者が独断で薬を中断するのは病状悪化のリスクがあり、避けなければならない。
現在の病状を医師に見極めてもらい、飲む薬の数を適切に減らす。そのために参考にしたいのが、患者にムダな薬を減らす服薬指導をしている「断薬の名医」たちの実例だ。
『薬の9割はやめられる』(SBクリエイティブ)の著者で、日本初の「薬やめる科」を開設する熊本県・松田医院和漢堂院長の松田史彦医師は、60代の高血圧患者(男性)への処方を見て「ひっくり返るかと思った」と振り返る。
「男性の初診時の血圧は上が180で下が100。当院に来る前は総合病院の循環器内科を受診して、降圧剤はカルシウム拮抗薬2種類(アムロジピンとニフェジピン)のほか、ARB(オルメテック)、β遮断薬(ビソプロロールフマル酸塩)、チアジド系利尿薬(トリクロルメチアジド)をそれぞれ1種類ずつ、計5種類を処方されていました。さらに脂質異常症薬(ベザフィブラート)も処方されており、1日に10錠もの薬を飲んでいたのです。
それでも総合病院の専門医の出す薬を疑わなかったのか、私が驚くのを見て、患者さんも『何事か』とびっくりされていました」
月に300錠もの薬を服用していたこの患者には、ある問題が生じていた。