新型コロナウイルスから身を守っていた「マスク」。しかし海外では、このコロナ禍のなかで、マスク着用の弊害について多くの研究が進んでいる。その集大成とされるのが、ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツやFOM大学などの研究チームが2021年4月に公表した「鼻と口を覆うマスクを毎日つけることで、弊害や潜在的な危険性は生じるか」という論文(以下、マスク論文)である。アメリカ在住の内科医・大西睦子さんが説明する。
「研究チームは、マスク着用による副作用について、44件の研究と65件の発表論文を科学的に分析しました。それにより、マスクの着用により、繰り返しみられる心理的、身体的な悪化や複数の症状があると結論づけ、それを『マスク誘発疲労症候群(MIES)』と名づけています」
マスク論文ではマスク着用がもたらす弊害を「生理・病態生理学的」「神経学的」「心理的」「皮膚科学的」など各分野に分けて列挙している。
マスク論文で分析されたインド・バンガロール大学の研究では、マスクの表面や中に大腸菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ、クレブシエラ、腸球菌、シュードモナスなど、深刻な病気を引き起こす可能性のある細菌や真菌が検出された。さらにはマスクの素材がもたらす健康被害も報告されている。フランス在住のジャーナリスト・羽生のり子さんが語る。
「一部のサージカルマスクとN95マスクには発がん性物質のホルムアルデヒドが使われており、神経に障害をもたらす可能性が指摘されています。この物質はシックハウス症候群を引き起こす物質として有名です。また、不織布マスクの耳バンドに使用される薬剤のチウラムは、ジチオカルバメート系の殺菌剤で、農薬としても利用されています。マスク論文では、それらの成分が湿疹やじんましんを引き起こしたケースも報告しています」(羽生さん・以下同)
マスクの素材の“危険性”については、マスク論文と別の研究もある。中国環境科学研究院などの研究チームは、マスクの素材である「マイクロプラスチック」の吸引実験を行った。マイクロプラスチックとは、直径5mm以下の微細なプラスチック粒子をさす。多様な工業製品に利用されるが、一部がゴミとして海に流出して、海洋汚染を引き起こすことが社会問題となっている。
中国の研究チームが代表的な市販マスク7種類を用いて実験したところ、低品質のマスクほど、口を覆っているうちにマイクロプラスチックを吸引するリスクが高まることがわかった。また、水洗いやアルコール消毒、乾燥させるなどすることでマスクの繊維構造が損傷し、マスクから発生するマイクロプラスチックを吸い込むリスクが高まった。マスクを洗って再利用することは避けた方がよさそうだ。