【書評】『王様の耳 秘密のバーへようこそ』第1巻/えすとえむ/小学館/880円
【評者】栗俣力也(TSUTAYAの名物書店員)
人に言えない秘密のない人間なんていない。私はそう思う。
人生を歩んでいく中でどんどん増えていく秘密。それを隠すためについていく嘘で、さらにその秘密は積み重なっていく。
誰にも言えないからこその秘密。しかし同時に誰かにそれを話してしまいたいと思うのもまた秘密をもつ人間の欲求だろう。
そんな秘密を誰にも漏らさずこっそり聞いてくれて、しかもその秘密の価値に応じて報酬を出してくれるという場所が存在したら。それがこの作品の舞台となるBAR「王様の耳」であり、そこで秘密を聞いて査定し報酬を払うのが謎に満ちたこの店のオーナーなのだ。
誰かと話している時に秘密にされれば秘密にされるほどそれを聞きたくなってしまうという人は多いのではないだろうか?
「ガイダロス」という名のカクテルを注文する事で通される奥の小部屋。オーナーが秘密を聞く場所。コミックスを開くと早速一人目の秘密を持った女性の物語がはじまる。
お互い不倫同士の彼氏との間に子供が出来た事を彼氏に言えずにいる女性。その秘密の値段は5600円。この金額に対してほとんどの読者は安いと感じるのではないだろうか? 少なくとも私はそう思ったし、実際その安さから秘密を打ち明けた女性はそんなものかと心が軽くなって帰っていくシーンも描かれている。
この話をもし自分が誰かから打ち明けられたらと思うと相当の秘密だと感じる。思わず返答に悩んでしまうだろう。確かに世に溢れた秘密なのだとは思うが、しかしこれがたった5600円なのだ。
この一人目の女性の物語は第1話(1杯目)が始まる前に収録され、目次にはアペロ(食前酒)と書かれている。夕食前のひと時を過ごす軽い物語。その表記に間違いはなく、ここから物語は本編へと突入していく。1巻を読み終わった今、結論から言えばこの最初の女性の話は確かにアペロだった。ここから描かれていく数々の秘密は間違いなくこれ以上のものだった。