持病が多くなる高齢者ほど、服用する薬の数が増える現実がある。日本初の「薬やめる科」を開設する熊本県・松田医院和漢堂院長の松田史彦医師が降圧剤などの生活習慣病の薬と同様に「雪だるま式に増えやすい」と指摘するのが、精神科系の薬や睡眠薬だ。
「3年ほど前に初めて来院した男性患者さんは、降圧剤に加えて精神科で睡眠薬をなんと4種類、抗うつ薬など合計6種類が処方されていました。来院時には呂律も回らず、うまく話すことができていませんでした。仕事のストレスや過労でうつっぽくなり精神科を受診したそうですが、とんでもない量の薬を飲んでいたため、かえって仕事どころではなくなっていた。
2~3年かけて徐々に薬を減らし現在、睡眠薬など精神病薬は完全にゼロです。今は補中益気湯、抑肝散、陳皮半夏など漢方薬と保険適用のビタミン剤を飲んでいます。血圧もそれほど高くなかったので降圧剤は中止しました。現在は頭もシャキッとされて別人のようです」
泌尿器科が専門の川崎医科大学附属病院病院長の永井敦医師はこんな患者を診察した。
「頻尿があり、前立腺がんの疑いで受診された70代後半の男性患者さんは、治療薬として半年前から抗コリン薬が処方されていました。同席した奥さんは『最近認知症が強くなって尿失禁するようになった』という。
初診時から認知症の可能性が高そうな印象でしたが、過活動膀胱治療薬として多く使われる抗コリン薬は、認知症やパーキンソン病の副作用が報告されています。それまでにも、抗コリン薬を処方した患者さんが数か月後にうつむき加減になってしまうケースがあったので、認知症が疑われる症状が出た場合、抗コリン薬はすぐに中止していました。そこで男性にもまず抗コリン薬の中止を勧めたところ、次第に認知症の症状は軽くなりました」
永井医師は、薬をやめることに抵抗感を示した妻の要望を聞き、抗コリン薬の代わりに、漢方薬に切り替えたのだという。「症状改善の効果があったのは、漢方薬のおかげというより、抗コリン薬をやめたことだと考えられます」と振り返る。