5月17日、アメリカで新型コロナウイルス感染による死者数が100万人を超えた。現在も1日300人前後の死者が報告される半面、すべての州で、公共の場でのマスク着用義務が廃止され、アメリカ国民は新型コロナ以前の生活を満喫している。
新型コロナ発生後、海外ではマスク着用の弊害について多くの研究が進んでいる。その集大成とされるのが、ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツやFOM大学などの研究チームが2021年4月に公表した「鼻と口を覆うマスクを毎日つけることで、弊害や潜在的な危険性は生じるか」という論文(以下、マスク論文)である。アメリカ在住の内科医・大西睦子さんが説明する。
「研究チームは、マスク着用による副作用について、44件の研究と65件の発表論文を科学的に分析しました。それにより、マスクの着用により、繰り返しみられる心理的、身体的な悪化や複数の症状があると結論づけ、それを『マスク誘発疲労症候群(MIES)』と名づけています」
マスク論文ではマスク着用がもたらす弊害を「生理・病態生理学的」「神経学的」「心理的」「皮膚科学的」など各分野に分けて列挙している。
マスク着用の弊害で、とくに危惧されるのが子供への影響だ。昨年8月、米ブラウン大学が行った調査には衝撃が走った。研究チームは、幼児期の知能、コミュニケーション能力など認知機能の発達を分析した。その結果、新型コロナのパンデミック以前(2011〜2019年)に生まれた3か月〜3才の乳幼児の認知機能のテストの平均スコアを100とすると、パンデミック中(2020年、2021年)に生まれた乳幼児の平均スコアは78だった。なんと成績が20%も低下していたのだ。その要因となった可能性が高いのが、ほかならぬマスクの着用だ。国際未病ケア医学研究センター長の一石英一郎さんは言う。
「人間の脳は、生まれてからすぐにものを見ることを司る後頭葉が発達し、次に音を聞く能力にかかわる側頭葉が発達します。さらに体の動きにかかわる頭頂葉や、コミュニケーション能力や理性などを司る前頭葉が発達します。
また乳幼児は親の目や鼻、顔全体などを見てコミュニケーション能力を育みますが、マスクの着用がその機会を奪ってしまった。マスクが脳やコミュニケーション能力の発達を抑えたことにより、乳幼児の認知能力が低下した可能性があります」(一石さん)
マスク論文では、マスク着用による血中酸素の減少や二酸化炭素の増加による「隠れ酸欠」で頭痛やめまい、集中力の低下が起こり、脳の機能が低下する可能性なども指摘されたが、脳が未発達な乳幼児は、成人よりもマスク着用が脳に与える悪影響が大きくなる恐れがある。