秀作には必ず脇で光る存在があるものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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春期のドラマの中で、想定を超えて話題が沸騰した作品といえばNHK総合『正直不動産』(火曜日午後10時)でしょう。とうとう来週6月7日、惜しまれながら最終回を迎えます。
振り返れば、放送開始直後から大きな反響が寄せられてウハウハ状態になったであろうNHK。異例となる三度の“連続再放送”に留まらず、最終回が終わった後にも特別番組『正直不動産 感謝祭』(6月14日午後10時)を放送するとか。手応えがあった証でしょう。
しかし、いくら主人公役が人気者の山下智久さんだとしても。ドラマがここまで広く話題になり反響を得た理由は、それだけではないはず。理由をつきとめることは「今、人々が求めているドラマ像」について把握することにつながるはずです。
主人公は嘘八百、口八丁で営業成績ナンバー1、登坂不動産のエース永瀬財地(山下智久)。またの名を「ライアー(嘘つき)永瀬」。平気でウソを絡めながらの営業トークで成績を伸ばしてきた永瀬が、ある日突然土地のたたりによってウソがつけない体質になる。不動産の賃貸や売買をめぐる営業トークの最中に、つい「正直」な話をしてしまい、毎回騒動が起こる……という実に皮肉めいた展開です。
ペアローン、事故物件、リバースモーゲージ、地面師と、世間を賑わすリアルな題材を料理していく手腕も見事。それもそのはず。原作は『ビッグコミック』(小学館)で連載中の同名マンガ。不動産業界の問題点とそれをめぐる人間模様が実に丁寧によく掘り下げられている。
という漫画原作を土台に、ドラマを作っていく手法も見事です。永瀬に吹く正直の風の描写。画面に適宜、不動産専門用語についての解説も入る。筋立てはハラハラドキドキ。そこに恋愛、また陰謀も絡めつつ、軽やかなコメディタッチもまぶして、ドンデン返しできれいに着地。これぞ見たいドラマの新ジャンル、と膝を打ちたくなる。
主人公・永瀬を演じる山下さんも独自性のある演技を見せています。良い意味で「無機質」。感情の変化を外に見せず、ギスギスしたりイジメっぽく湿った雰囲気にならず、常に淡々と反応し正直な見解を吐露する。それが業界の常識を揺るがせ、時に混乱、時に希望、残酷さや面白さを映し出す。そう、永瀬のつるんと無機的な顔は、まるでまわりを映し出す鏡のようです。
忘れてはならないのが、その永瀬を輝かせている縁の下の力持ちの存在でしょう。新入社員・月下咲良を演じる福原遥さんです。
正直、登場した当初は可愛いらしくてちょっとドジな部下程度の印象でした。口をすぼめて鈴が転がるような声で話すせいもあり、「何もわかりません、教えてください」という典型的な駆け出し新人アイコンかと思いました。
ところがどうして。素直で木訥なキャラを遠慮がちに演じつつも、一方で表情に微細な変化をつけ、時にはぐっと前に出て、酔っ払って絡んでみたり。父親との関係を描くシーンでは、笑みを浮かべながら泣いてみたり。
愛らしいけれど実は「骨太」ということもよく把握できている福原さん。細かな演技をしながら、一方で大胆に躍動することもできる。相手の芝居をきちんと受けながらの演技も役者としての感性の鋭さを感じます。