東京都は5月25日、首都直下地震の被害想定に関する新たな報告書を発表した。発表は実に10年ぶりのこと。最も巨大な「都心南部直下地震(M7.3)」が発生した場合、震度6強以上の揺れに見舞われる範囲は東京23区の約6割に広がり、建物被害は約19万棟、死者は約6000人に及ぶと試算された。
2011年の東日本大震災では、液状化現象の被害が深刻だった。首都直下地震は、当時よりも甚大な被害を生む危険性がある。神戸大学都市安全研究センター教授の吉岡祥一さんが言う。
「液状化現象は埋立地や河川付近の軟弱地盤で起こる現象です。強い地震の揺れが十数秒程度続くと、地中でバランスが取れていた砂と水の関係性が崩れ、砂粒が水中を浮遊しているような状態になって起きる。上に建っている建物が傾くといった被害を及ぼします」(吉岡さん)
液状化により、地盤が数m水平移動することもあるという。その場合、建物は海や川に吸い込まれるように沈んでいく。在宅中に自宅が水平移動を始めれば、避難する時間はない。報告書によると、東京のベイエリアでは、こうした液状化の現状により「約1500棟が全壊する」と予測されている。それが何千人という人が生活するタワマンでないことを祈るばかりだ。
ベイエリアに数多く存在する石油タンクにも危険がある。立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学さんが言う。
「石油タンクの蓋は置いてあるだけの状態なんです。普段は動くことはありませんが、直下地震の揺れなら蓋が浮く可能性があります。その際に金属同士がこすれて火花が発生し、中の燃料に引火して火事になる。燃料が漏れれば、大規模火災につながりかねません」(高橋さん)
首都直下地震で最も多くの死者を出す要因と予想されているのがこの火災だ。京都大学名誉教授で地球科学者の鎌田浩毅さんが言う。
「1923年の関東大震災では約10万人が亡くなりましたが、そのうちの9割が火災による死者でした。火災旋風という、高さが最高200m以上の巨大な炎の渦が竜巻のように移動し、火を広げました。木造建物の密集地域は当時と比べて減ったとはいえ現在もたくさん存在します」(鎌田さん)