ライフ

話題の書籍『母親になって後悔してる』が描くタブーが共感を呼ぶ理由

子供のことは愛している。それでも「産まない人生」を想うのはなぜか

子供のことは愛している。それでも「産まない人生」を想うのはなぜか

 わが子のために夕食を作り、温かいお風呂に入らせ、整えられたベッドに寝かせる。理想的な母親であろうとする、ひとりの女性の心にくすぶり続けるのは「あの日に戻れるなら、母親にはならない」という、相反する思いだった。話題の書籍が切り込んだタブーとは。

「もし時間を巻き戻せるとしたら、もう一度、母になりたいと思いますか?」

 そう問いかけられたとき、何の迷いもなく「はい」と答えられる母親はどれほどいるだろうか──。母親であることの苦悩や違和感、それらを生む社会構造について分析した書籍『母親になって後悔してる』(新潮社)が、世界中で波紋を広げている。

 原書の著者はイスラエルの女性社会学者オルナ・ドーナト氏。書籍は2011年にイスラエルで発売された後、学術論文でありながらヨーロッパ各国で反響を巻き起こした。

 同書で綴られているのは、イスラエルの23人の母親たちの心の内だ。
 
 イスラエルはユダヤ教の教えにもとづく保守層が多く、2019年に調査された合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むことが見込まれる子供の数を示す指標)は3.01(同年、日本では1.36)に達した。

「女性は子供を持つのが当たり前」という意識が強い土地柄での彼女たちの告白は、国を越えて強いメッセージを放つ。本の中で、幼い子供1人の母親であるバリはこう語る。

《「お母さんになった気分はどう?」とたずねられると、私は無理して笑顔を作ります。だって、私に何が言える? 自分が惨めだと? 大変だと?》

 10代の子供2人と成人した子供1人の母親であるスカイは、こう心情を吐露する。

《子どもを持つのは間違いだった、私にとって大きな重荷だった、と口に出すのは、(最初は)難しいことでした。(中略)そんなことを言ったら、頭がおかしいと思われると考えていました。今でもそうです》

 現在までに英語やフランス語、ドイツ語、韓国語など12か国語に翻訳され、今年3月には日本でも発売された。発売されるや否や、SNS上にはさまざまな感想が相次いだ。
「なぜだか涙が止まらなかった」「心の内を見透かされているように感じた」

 共感が寄せられる一方で、反発の声もある。

「子育てから逃げる言い訳を並べているだけ」「私は男だが、もし妻や母親がこの本を読んでいたら、立ち直れない」

 これまで母親になることは、女性たちの純粋で本能的な希望によるものだと考えられ、育児の大変さは語られても、「後悔」という形で表明されることはなかった。あまりに衝撃的な内容に、ドーナト氏が2015年に学術誌に論文を掲載した際には、インターネット上に殺害予告さえ出されたという。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下の「慰霊の旅」に同行された愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、皇室とご自身の将来との間で板挟み「皇室と距離ができればこうした仕打ちがある」という前例になった眞子さんの結婚 将来の選択肢を“せばめようとする外圧”も 
女性セブン
“じゃないほう”だった男の挑戦はまだまだ続く
「いつか紅白で『白い雲のように』を歌いたい」元猿岩石・森脇和成が語る有吉弘行との「最近の関係性」
NEWSポストセブン
「ピットブル」による咬傷事故が相次いでいる(左・米軍住宅参考画像)
《沖縄で相次ぐピットブル事件》「チェーンを噛みちぎって引きずった痕も…」自治体が狂犬病の予防接種すら把握できない“特殊事情”「米軍関係者の飼い犬だった」 
NEWSポストセブン
白鵬の活動を支えるスポンサー企業は多いと思われたが…
白鵬「世界相撲グランドスラム」構想でトヨタ以外の巨大スポンサー離反の危機か? “白鵬杯”スポンサー筆頭格SANKYOは「会見報道を見て知った。寝耳に水です」
週刊ポスト
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルの飛行機でスヤスヤ》佳子さまの“寝顔動画”が拡散…「エコノミークラス」に乗った切実な事情
NEWSポストセブン
6月13日、航空会社『エア・インディア』の旅客機が墜落し乗客1名を除いた241名が死亡した(時事通信フォト/Xより)
《エア・インディア墜落事故》「ボタンが反応しない」「エアコンが起動しない」…“機内映像”で捉えられていた“異変”【乗客1名除く241名死亡】
NEWSポストセブン
ロスで暴動が広がっている(FreedomNews.TvのYouTubeより)
《大谷翔平の壁画前でデモ隊が暴徒化》 “危険すぎる通院”で危ぶまれる「真美子さんと娘の健康」、父の日を前に夫婦が迎えた「LAでの受難」
NEWSポストセブン
TBS田村真子アナウンサー
【インタビュー】TBS田村真子アナウンサーが明かす『ラヴィット!』放送1000回で流した涙の理由 「最近、肩の荷が下りた」「お姉さんでいなきゃと意識しています」
NEWSポストセブン
来来亭・浜松幸店の店主が異物混入の詳細を明かした(右は来来亭公式Xより)
《“ウジ虫混入ラーメン”が物議の来来亭》店主が明かした“当日の対応”「店舗内の目視では、虫は確認できなかった」「すぐにラーメンと餃子を作り直して」
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
オーストラリアの美容医療で研修や教育、広告制限など非外科的治療の規制強化、未成年はカウンセリングから7日間無条件で取り消し可能に、2025年9月から開始、インフルエンサーの活動も制限
その他