古来、“雨が降ると古傷が痛む”といわれてきたが、気象と痛みとの関係は最新研究によって明らかになってきている。内科医で上本町わたなべクリニック院長の渡邊章範さんが言う。
「腰の神経に傷をつけたラットを低気圧の状態にさらすと、その痛みが増悪したという実験結果があります。これは、痛みを感知したり体のバランスを取ったりする内耳が気圧の変化に反応したことに加え、低気圧による体のむくみや湿度の上昇で汗が出にくくなることで痛み物質のヒスタミンや炎症物質のプロスタグランジンなどが細胞にたまり、痛みを感じやすくなることが原因だと分析されています」
渡邊さんによれば、天気が理由で不調を訴える人が急激に増えているという。
「天候や気温の変化が原因で体調が悪くなる、いわゆる“気象病”に苦しむ人は、年を追うごとに増えています。特に女性はホルモンの影響もあり、こうした変化に反応しやすい。当クリニックでは、気温の変化が激しい日や雨の日に患者が増える傾向があるのですが、その3分の2は女性です」
そもそもなぜ、天気の変化が体に影響を与えるのか。その理由の1つは気温差にある。寒暖差疲労外来のある、せたがや内科・神経内科クリニック院長の久手堅司さんが解説する。
「人間の体は、内臓や代謝などを24時間体制でコントロールする働きを持つ自律神経によって体温を一定に保っていますが、気温差が激しければその機能を酷使することになる。やがて対応しきれなくなると自律神経が乱れ、体内のあらゆる場所で不調が起こります」
気象との相関関係が判明したのは身体的な不調にとどまらない。
「ストレスで衰弱したラットを低気圧の環境に置くと、さらに活動量が低下したという実験結果もありました。人間も同様で、低気圧の日にうつ症状を訴える患者さんは多いです。また、自律神経の乱れにより、交感神経が過剰に活発化し、イライラしたり興奮して眠れなくなったりするケースもあります」(渡邊さん・以下同)
自律神経が整うロック音楽と散歩
いくら体の調子が悪くても、太陽や雲の動きをコントロールすることは不可能だ。全身を蝕む可能性すらある気象病にどう対峙すべきなのか。渡邊さんは、何よりもまず気候と体調の相関関係を知ることが重要だとアドバイスする。
「程度の差はありますが、気圧や温度、湿度の影響を受けない人間はいません。特に日本には四季があり、私たちは年間を通じて30〜40℃の気温差がある環境で生きている。気象の影響を受けやすい人ならば何かしらの症状が出てくるのが当然です。
大切なのは、気候の変化で体調が悪くなる可能性があることを知り、症状を認識しておくことです。客観的に症状を知るために、どんな天気のときにどんな不調が起きたのかを“不調日記”として記録しておくのもいいでしょう」
不調の傾向が把握できたら、予防に取り組もう。