東京を襲う首都直下地震の被害想定が10年ぶりに見直された。5月25日に東京都が発表した災害シナリオの報告書では、地震後に揺れなどにより建物が倒壊し、広い範囲で火災や停電、断水が生じる。さらに交通網の寸断による救出・支援活動の遅れや震災関連死が発生するリスクまで指摘されている。報告書に携わった工学院大学建築学部教授の久田嘉章氏が語る。
「首都直下地震はどこでどのような規模の地震が起きるかで被害が大きく変わる。正しく恐れて正しく対策するためにも、最悪に近い状況を含めて想定しました」
最も巨大な「都心南部直下地震」(M7.3)では、震度6強以上の揺れが生じる範囲は東京23区の6割以上に達し、建物被害数は約19万棟、死者数は最大で6000人を超えると想定されている。中でも多くの被害が出そうなのが、全壊する住宅が密集する地域だ。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が語る。
「現在の東京には、戦時中の東京大空襲で焼け残った木造住宅が未だに密集するエリアがあります。こうした住宅は老朽化が進んでいるため、地震による揺れなどで倒壊や火災が発生する可能性が高い。道幅が狭い細街路に密集するケースが多いので、救助・消火活動が遅れやすいのも難点です」
想定される全壊棟数の分布を示したのが、別掲のマップだ。これを見ると、東京の北東と南に被害が集中することが分かる。
「木造住宅は足立区、江戸川区、江東区、墨田区といった下町エリアに集中していますが、高級住宅街として知られる世田谷区、品川区など南部エリアにも古い木造住宅が密集している場所があります」(渡辺氏)
東京都が想定する全壊棟数は足立区、大田区、世田谷区などで6000棟を上回る。東京郊外を走る環状6号(山手通り)、7号、8号の周辺にも注意が必要だ。
「環状6号~8号周辺にも木造住宅の密集地が点在し、大田区大森、品川区中延、目黒区洗足、世田谷区駒沢、中野区野方、杉並区高円寺、練馬区桜台などが危険地域になります。地震発生時、都心から甲州街道などの幹線道路を使って郊外に帰宅する際に、環状6号~8号沿いの倒壊家屋に遮られて人が滞留し、パニックに陥る危険もあります」(同前)
※週刊ポスト2022年6月24日号